奥山由之が「silent」脚本家・生方美久に送った一通のDM。出会いから『アット・ザ・ベンチ』に込めた想いまでを語る
「各編、全部、撮り方が違いますよね。画だけ見ていてもおもしろいです」(生方)
――広瀬すずさんと仲野太賀さん演じる2人の会話が終始ユーモラスなのだけれど、笑わせに行くという積極的なものというよりは、他愛ないものをくすくす笑う感じで、そこに幼なじみならではの関係性が出ているようでとても心地良かったです。セリフがあまりに自然なのですが、すべて台本通りなのでしょうか。
生方「ほぼほぼ。あ、でも、広瀬さんがビニール袋を落としちゃうのは台本に書いてなくて。ほんとに落としちゃったみたいで、『落としちゃった』と言いながら拾うのがかわいくていいなあと思って映画を観ました」
奥山「せっかくワンシチュエーションなので、一つの物語を最初から最後まで通して演じてもらうことで、その場でしか起こり得ないある種の即興性や偶発性を取り入れたかったんです。15分間を台詞通りに完璧に演じきるのも良いのですが、役者さんたち自身の持っている魅力や癖みたいなものが、役柄に混ざり合って、虚と実の間を行ったり来たりするといいなと思っていました」
生方「各編、全部、撮り方が違いますよね。第1編は背中から、第2編は正面から登場人物を撮っていて、第3編は姉妹の動きを追ったすごく躍動感があるもので、第4編もまた全然違う。画だけ見ていてもおもしろいですよね」
奥山「第1編と第5編は、俳優の目線にカメラをはじめとする撮影用の機材や、スタッフが入らないようにしたんです。ふつうは、俳優にはカメラなどが見えていて、登場人物の目に映る風景とは異なるものですが、今回は、俳優と登場人物の目に映る世界を重ね合わせて同じにしてみたかった。それで、カメラをほぼずっと、広瀬さんと仲野さんの背後に置きました。ベンチに人が座った時、後ろから捉えるほうが背もたれの曲線なども含めてフォルムが綺麗に見えるし、観客もベンチ自体が主軸の作品であることを意識できる。とくに生方さんに書いていただいた話は作品全体の始まりと終わりでもあるし、ベンチを一つの登場人物として捉えてもらえるといいなと思ったんです」
生方「脚本を書く時から、バックショットメインでとは言われていました」
奥山「2人の表情があまりはっきり見えないほうが、たまたま見かけた人たちの会話をそっと見つめているような感覚になって、より愛おしく感じられるのではないかなと。以前読んだ生方さんのインタビューの中で、映画やドラマなどでは、登場人物が何かしらの明確な成長をして、まるで頑張って生きていこうと励まされるような物語が多いけれど、自分の場合は、その人物がいままでどうやって生きてきたのかを知れるだけで充分で、頑張ってじゃなくて、頑張ってきたね、と認めてくれるような物語が書きたい、というお話をされていたのがとても印象に残っていて。背中をぐっと押すのではなくて、背中に手を添えるみたいな感覚で登場人物に寄り添っているのだと思います。だからこそ今回、第1編と第5編は背後から見守るようなショットを中心とした撮り方になりました」
――バックショットのほかは、お互いがお互いの横から見る横顔に近いものに新鮮さや生々しさがありました。
生方「ポスターに使われている写真もそうですけれど、商業作品、特に邦画では、主要キャストの顔を大きく載せるという暗黙の決まりのようなものがありますよね(笑)。ああいうことをしなくていい作品はなかなかない。しかも広瀬すずさん、仲野太賀さんが出てくる作品にもかかわらず、本編で2人の顔を正面からはっきり映さないことはなかなかできないことなので、今回、すごくいい体験ができたなと思っています」
――生方さんのドラマは、風景やアングルなど画が物語る部分も多いように感じますが、脚本を書く時、画が浮かんでいるのですか。
生方「普段、ドラマの脚本を書く時に、自分のなかのカット割りはあるんですよ。もともと映画監督になりたかったこともあって。引きやアップなどのイメージを浮かべながら書いています。でも別にそれ通りに撮ってほしいわけではなく、イメージがあるほうが書きやすいというだけで。むしろ出来上がったものを見て思っていたものと違っていたほうが楽しめるというか。私だけが、2パターンの物語を楽しめるみたいな感覚です。今回、数々の優れた映画を撮っている撮影監督・今村圭佑さん(『新聞記者』『ホットギミック ガールミーツボーイ』『百花』『四月になれば彼女は』などを手掛ける)に自分が書いたものを撮ってもらえたこともすごくうれしかったです」