進化し続ける最強バディ、藤井道人監督×横浜流星!“ぼっち同士”だった2人の出会いから映画『正体』までの歩み
コロナ禍のなかでも「新聞記者」『パレード』など話題作を連発
さぁここから黄金コンビの快進撃が始まると思いきや、無情な運命が襲い掛かる。新型コロナウイルスの蔓延だ。映画業界もストップし、先の見えない不安の中で……一条の光が差し込む。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが「新型コロナウイルスの影響を受けたクリエイター、制作スタッフ、俳優が継続的に創作活動に取り組めるように」と企画したアンソロジー映画『DIVOC-12』(21)だ。その一篇を託された藤井監督は『名もなき一篇・アンナ』という約10分の短編を書き下ろし、横浜に声をかける。わずか3日で北海道、沖縄、京都、東京を横断して撮影を敢行するという強行スケジュールだったが、「もう出会えない相手との思い出の日々を回想する」切ないストーリー×各所のエモーショナルな映像×横浜の身を削るような芝居が見事に融合した珠玉の短編に仕上がった。
2022年には、Netflixシリーズ「新聞記者」で米倉涼子、綾野剛と共にメインキャラクターを演じた横浜。政治に興味のない大学生が身内に起きた不幸を受けて意識が変化し、やがて大きく成長していく姿を丹念に演じ切っている。ある種、視聴者に一番近いポジションであり、映画版ではカットした「一般の人々の代弁者」を横浜に託す辺り、藤井監督の横浜に対する熱い信頼がうかがえる(木下亮という役名もファンならニヤリとさせられることだろう)。
続く2023年には、テレビドラマ「インフォーマ」での“隠し玉”として、回想編の重要人物役で横浜がサプライズ出演。人懐っこい金髪の青年という意外な役どころ含めて、ファンを驚かせた。かと思えば、同年には『新聞記者』のスターサンズ・河村光庸プロデューサーの遺作となった『ヴィレッジ』で、親の罪と業を背負って閉鎖的な村社会で這いつくばるダークな主人公を力演。横浜が脚本制作やロケハンにも参加し、これまで以上に生き抜く姿を見せつけた。一方、藤井監督は横浜自身を投影して主人公像を構築。『ヴィレッジ』のインタビューで藤井監督は次のように当時を振り返っている。
藤井「今回のお題をもらってからすぐに流星と会って、『ゼロからなんだけど、どういう映画にしていく?』と映画サークルで一緒に作るくらいのテンションで打ち合わせる時間を持ちました。その時に流星が打ち明けてくれた私生活の悩みが、一瞬で転落するかもしれないという恐れやフラストレーションだった。それは優や作品全体にリンクするものだと感じました。そこで、流星本人の要素を意識的に追加していきました」同年には『ヴィレッジ』『流浪の月』『春に散る』といった横浜の新境地となる力作が連続して公開され、横浜は、第46回日本アカデミー賞優秀助演男優賞や第48回報知映画賞の主演男優賞に輝いた。なお『ヴィレッジ』のコラボレーションソング「スワイプ」もamazarashiが手掛けており、藤井監督(現実パート)と新宮良平監督(夢パート)が横浜を演出。壊れていく会社員の“現実と地続きにある狂気”が、身を切られるような凄みを放っている。
2024年の2月には、Netflix映画『パレード』で未練を残して死んだヤクザの若者に扮した。河村プロデューサーが亡くなったことで一時期は実現が危ぶまれた企画だったが、藤井監督が“一人合宿”を敢行して脚本開発に臨み、成立させた逸話を持つ本作。実は、横浜がその合宿に駆け付け、見守っていたという心温まるエピソードがある。同作で横浜が演じた役どころは、「『ヤクザと家族 The Family』に出演したかった!」と常々語っている横浜への藤井監督からのプレゼントとも見ることができる。
直近では湖池屋「ピュアポテト」のCMや、横浜が主演したABEMAオリジナル連続ドラマ「わかっていても the shapes of love」のエグゼクティブプロデューサーを藤井が務めるなど、ますますタッグが加速している両者。ただ仲がいいから継続的に組んでいるのではなく、その時々でお互いにハードルを設定し、越えていこうとするのが彼ら流の付き合い方だろう。『正体』では、“5つの顔を持つ死刑囚”という難役だけでなく、難易度の高いアクションシーンにも果敢に挑戦している。