進化し続ける最強バディ、藤井道人監督×横浜流星!“ぼっち同士”だった2人の出会いから映画『正体』までの歩み

コラム

進化し続ける最強バディ、藤井道人監督×横浜流星!“ぼっち同士”だった2人の出会いから映画『正体』までの歩み

細かなニュアンスまでこだわり抜いた『正体』での演技

見た目だけでなく、まったくの別人に見える演技に注目!
見た目だけでなく、まったくの別人に見える演技に注目![c]2024 映画「正体」製作委員会

正体』で横浜が演じる鏑木慶一は、一家惨殺事件の犯人として逮捕されるも、刑務所から脱走して日本各地を転々としつつ潜伏を続ける人物。東京、大阪、長野と現れる先々で別人になりすまし、あるときはフリーライター、あるときは工事現場の作業員、ある時は介護施設の職員として勤務しながら“ある目的”のために動く。この役どころが複雑なのは、まず鏑木という人物を“生きた”うえで、ベンゾー/那須/桜井という人物の“ふりをしている”ニュアンスを出さなければならないということ。かつ、同僚たちに正体がバレそうになったときに豹変するような“怖さ”や、他者との交流の中で心が動かされて本来の人物像が出てきてしまう“揺らぎ”といったギャップの部分を細やかに表現する必要がある。ただ鏑木の人物像を確立するだけでは不十分なのだ。利き手や歩き方なども変化を付けつつ、完全に別人になってしまっては違う――という微妙な塩梅を横浜は己が身一つで体現している。

 激しいシーンを撮ったあとでもさわやかな笑顔の横浜
激しいシーンを撮ったあとでもさわやかな笑顔の横浜[c]2024 映画「正体」製作委員会

そして、アクションシーン。冒頭、刑務所の独房で吐血した鏑木が救急車で運ばれている最中に突然暴れ出し、多対一の格闘の末に脱走するシーンは緊迫感たっぷりだが、長回しで撮影されている。刑事・又貫(山田孝之)に追いつめられた鏑木がマンションの窓から飛び降り、下に停まっていた車のボンネットをクッションにして地面に降り、そのまま逃走する――というシーンも同様で(横浜とカメラマンが同時に飛び降りることで実現。タイミングを合わせるべく、計14回もジャンプしたという)、横浜の身体能力の高さと鬼気迫る芝居に度肝を抜かれることだろう。「捕まったら死刑」という鏑木の切迫感&臨場感を最大限に引き出すべく、「ワンカットでいきたい」という藤井監督の“無茶ぶり”に横浜が応えたシーン群だ。

進化し続ける最強のバディ、藤井道人監督×横浜流星

ここまで藤井監督×横浜の2人が歩んだ歴史をざっと振り返ってきた。先に述べたとおり、“おまけ”として――ここ4年ほど2人と仕事をしてきた立場から、このコンビに対する印象の変化について少々綴らせていただきたい。

藤井監督とのリアルでの初対面は2020年の初め、藤井監督×横浜のコンビとの初仕事は『DIVOC-12』の撮影現場からだった。以降、藤井組の現場同行のほか、脚本制作時や編集作業時のフィードバック含め、様々な形で関わるようになり、現在に至る。その中で、2人の空気はこの約4年でより柔和かつ分厚くなったように感じている。横浜は藤井組に参加するとき、よくモニターを見つめる藤井監督のもとに来て意見を交わしているが、真剣さはそのままに笑顔が多く見られるようになった。撮影の合間に藤井監督、横浜を交えてスタッフ・キャストで談笑することもたびたびあり、『正体』の現場では緊迫感あるシーンでも横浜は近寄りがたいオーラを醸すのではなく、オープンでいながら集中力を切らさないという、さらに一つ上の段階に到達している感を漂わせていた。『ヴィレッジ』の撮影前に藤井監督が「役に深く潜りすぎてコミュニケーションが取れなくならないようにしてほしい」と横浜にリクエストしたそうだが、現場での居方にも着実な進化を感じさせられた次第。

藤井監督は横浜にだけ演出時にかける言葉違うという
藤井監督は横浜にだけ演出時にかける言葉違うという[c]2024 映画「正体」製作委員会

ちなみにモニター前での両者の確認についても非常にスムーズで、まさにツーカー状態。共通理解度が高いため、一言二言でイメージをきっちりとすり合わせられるのだろう。『正体』の撮影初日は新宿の繁華街の一角を封鎖して“雨降らし”を稼働させ、夜中から明け方まで撮影するものだったが、モニター前に陣取る藤井監督のそばでメモを取っていると、横浜がふらりと現れてサッと確認をとり、すぐ立ち位置に戻っていた。主役然とするのではなく、座長として引っ張りつつもその自然体の感じに、安心感を覚えたのを覚えている。


藤井監督はそんな横浜を温かく見守りつつ、よりテクニカルな情報共有――役の心情を紐解いてゆくようないわゆる俳優演出というよりも、作品全体から逆算した該当シーンの位置づけや構図の意図を絡めた微調整など、演出部同士の会話に近いような意見を伝えていたのが新鮮であった(藤井監督は『正体』現場のマスコミ向け囲み取材で「流星にだけ演出時の言葉が全く違う」と述懐)。藤井監督、横浜は共に「お互いが経験値を得て力を付けたこのタイミングで実現できてよかった」と手ごたえを語っていたが、その淀みのなさを目の当たりにして大いに納得した。再会するたびに進化している最強のバディ、藤井道人横浜流星。2人の覇道を、この先も追いかけてゆきたい。

文/SYO

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