横浜流星はロケハンから参加。“村社会”としての日本が抱える問題を描いた『ヴィレッジ』の圧倒的熱量の理由とは？

2024年もNetflix映画『パレード』、日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』(公開中)と次々に新作を発表し、今後も岡田准一プロデュースのNetflixシリーズ『イクサガミ』ほか多数のプロジェクトが控える藤井道人。彼の映画監督人生に大きな影響を与えたのが、元スターサンズ代表で映画プロデューサーの河村光庸だ。“時代に斬り込む”をテーマに社会のいまを鋭く捉えた企画を次々と打ちだした河村プロデューサーは、藤井監督と『新聞記者』(19)、『ヤクザと家族 The Family』(21)を制作。日本映画界に新風を吹かせ、更なる活躍を期待されていたが2022年の6月に急逝。その河村プロデューサーが最後に手掛けた一作が、とある村を舞台にした『ヴィレッジ』(23)だ。藤井監督の盟友である横浜流星を主演に迎えた本作は、河村プロデューサーの急逝により、二度と見ることのできないドリームタッグによるメモリアルで強烈な力作に仕上がった。今回は、5月10日のBlu-ray豪華版(特典DVD付)発売を記念して、改めて本作の魅力を紹介したい。

【写真を見る】能面のように場面によって表情を変える横浜流星の変化していく"狂気"にも注目！[c]2023『ヴィレッジ』製作委員会

すべての写真を見る(8件)

横浜がみせる“狂気”のグラデーションは圧巻！

『ヴィレッジ』は、能が盛んだった山村で巻き起こる事件を描いた社会派サスペンス。ゴミの最終処分場を誘致するか否かで村民が2つに割れ、村で暮らす少年、優の父がある事件を起こしてしまう…。時は流れ、大人になった優(横浜流星)はいまだに亡き父の汚名を背負いながら母が作った借金返済のために日夜、処分場で働いていた。表向きはクリーンな雰囲気の施設だが、裏でヤクザとつながっており、優はそこで村長の息子である透(一ノ瀬ワタル)に管理されながら不法投棄に加担させられている。終わりのない地獄のなか優は、心を病んで故郷に帰ってきた幼なじみの美咲(黒木華)と再会する。

初タッグ作『青の帰り道』(18)以降、CM、MV、ドラマ、短編映画と数々の形態で組んできた藤井監督と横浜(河村プロデューサーが亡くなった直後には、その遺志を汲み『パレード』の脚本開発にひとり臨む藤井監督のもとに多忙の合間を縫って横浜が駆け付けたという)。満を持しての“監督、藤井×主演、横浜”の長編映画となった本作でも横浜は、脚本のブラッシュアップから参加し、彼自身が抱える“転落する恐怖”という気持ちを藤井監督とシェアしたという。藤井監督の呼びかけでロケハンにも同行し、早期段階から役作りを行った。藤井監督は撮影に際し、詳細なキャラクター表を用意するスタイルをとっているが、優の人物像には誕生日や空手、好きなミュージシャンなど、性格から趣味嗜好に至るまで横浜と重なる部分を多く盛り込んだという。なお、横浜によると優のヘアスタイルは藤井監督を参考にしたそう。こうしたエピソードからも、二人三脚で作品を構築していったことがうかがえる。

その横浜が劇中でみせる“狂気”のグラデーションは、圧巻の一言だ。美咲と再会する前の優はどん底生活のなかで目は落ちくぼみ、生気のないままなんとか身体を動かしているような状態(常に猫背を意識したという)。美咲に手を差し伸べられて光が射し、汚れ仕事からも抜けだし、人生は急上昇。村の顔として一躍ブレイクし、明るく快活な性格となり外見もこざっぱりしたものへと変わるが、そんな生活も新たな事件が勃発して一気に瓦解する。一度手にした幸福を二度と失いたくない優の言動は荒々しくなり、情緒が乱れ暴走し、衝撃的なラストへとなだれ込んでゆく。つまり、横浜による芝居の“変貌”が物語の展開と連動しているのだ。これは藤井監督の横浜への厚い信頼を伺わせる構造であり、期待以上の“凄み”を披露した横浜には、現場を訪問した河村プロデューサーも驚いていたという。

「絶対に芸能・エンタテインメントは死なない」という河村プロデューサーの想いを受け継ぎ…