キム・テリの代表作を振り返る!才気ほとばしる「ジョンニョン:スター誕生」から社会派映画まで

コラム

キム・テリの代表作を振り返る!才気ほとばしる「ジョンニョン:スター誕生」から社会派映画まで

韓国の民主化運動の劇的な瞬間を描いた『1987、ある闘いの真実』のキム・テリ

去る12月3日、尹錫悦大統領により非常戒厳が宣言されたことで、韓国では2016年の朴槿恵弾劾を求めるろうそくデモを彷彿とさせる国民集会が連日行われている。45年前の12月12日に起きた粛軍クーデターを描いた『ソウルの春』(23)への注目も集まる中、韓国国民による社会運動の力強さを描いた『1987、ある闘いの真実』(17)のキム・テリの演技にも触れておきたい。

韓国現代史に刻まれた民主化運動をドラマティックに映画化した『1987、ある闘いの真実』
韓国現代史に刻まれた民主化運動をドラマティックに映画化した『1987、ある闘いの真実』[c]Everett Collection/AFLO

キム・テリは本作で、デモ活動家の収監されていた永登浦刑務所看守ビョンヨン(ユ・ヘジン)の姪ヨニとして登場している。ビョンヨンは投獄されていた新聞記者イ・ブヨン(キム・ウィソン)とひそかに通じ、指名手配中の運動家キム・ジョンナム(ソル・ギョング)との連絡役を買って出ていた。国家権力の横暴に加担した者。必死に食い止めようと試みた者。抑圧され命まで落とした者。韓国の民主化をめぐる群像劇の本作で、一見すればヨニは流行歌に親しみ、胸元に本を抱きキャンパスライフを満喫しようとする女子大生だが、実は労働争議が原因で父親を亡くしたため、社会運動を「それで世界が変わるの?家族のことは考えないの?」と突き放している。ヨニが大きく変化するきっかけとなるのは、のちにデモ鎮圧隊の催涙弾で命を落とす大学生ハンニョル(カン・ドンウォン)だが、モデルとなった李韓烈は学生時代に光州事件を目の当たりしながらも、デモに連帯できなかった後悔を胸にソウルへ上京した。韓国の現代史で長くつづいた弾圧の時代は、様々な形で当時を生きる人々に痛ましい記憶を残したが、ヨニのように傷を抱えたせいで沈黙する人もたくさんいたはずだ。

労働争議が原因で父親を亡くしたヨニを演じたキム・テリ
労働争議が原因で父親を亡くしたヨニを演じたキム・テリ[c]2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED


民主化を題材とした韓国映画の駆動力は、ごく普通の小市民キャラクターのドラスティックな変化と分かちがたく結びついている。チャン・ジュナン監督はキャスティング経緯を「唯一の女性としてイ・ハニョル烈士とつながり、普通の人々の視線を代弁しながら劇中で唯一変化する。このデリケートなキャラクターを全部やり遂げられる俳優が必要だった。キム・テリに会って私が望んでいたヨンヒが現れたと思った」と明かしている。ヨニが自分の身近にいた優しい大学生の痛ましい死に突き動かされるように駆け出し、デモの民衆たちと一緒にバスの上で拳を上げるクライマックスが劇的なのは、素朴な性格のうちに悲しみを秘め、その葛藤で徐々に変化していく市井の人をキム・テリが体現したことで、映画と観客を繋ぐからだ。カン・ドンウォンとツインボーカルを取った映画公式OSTに収録された「覆われた道」でのやや低音ボイスによる繊細な歌声は、ジョンニョンのそれとはまた味わいの違う悲しさと繊細さが聞かせる名曲なので、ぜひ聞いて頂きたい。

文/荒井 南

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