『カルキ 2898-AD』とインド神話「マハーバーラタ」のつながりとは!?これさえ知っていれば映画が120%楽しめる!
悪役すら憎めない!魅力的に「マハーバーラタ」のキャラクターたち
「マハーバーラタ」では、秩序を守るパーンダヴァ(五王子陣営)は正義で、秩序を乱し、欲望に忠実なカウラヴァ(百王子陣営)は悪だ。しかし、どちらの陣営にも個性的な人物が勢揃いしている。
五王子の長兄ユディシュティラは、正義の神ダルマの子である。次男のビーマは風神ヴァーユの子で、大食漢で力持ち。一番人気は三男のアルジュナだ。彼は雷神インドラの子で、神弓ガーンディーヴァを操る類稀なる弓使いである。双子のナクラとサハデーヴァは、アシュヴィン双神の子である。四男のナクラは見目麗しく剣が得意、五男のサハデーヴァはとても賢かった。
実は五王子たちの本当の父は神々である。パーンドゥ王は呪いで子を成せなかったので、妃のクンティーが持っていた神の子を授かる呪文を使い、五王子を授かったのだった。
五王子たちに力を貸すのは、ヤーダヴァ族の王であるクリシュナだ。クリシュナは実はヴィシュヌ神の化身である。大戦争では、クリシュナはアルジュナの御者となり、アルジュナに人の生きる道を解く。クリシュナとアルジュナの対話は「バガヴァッド・ギーター」と呼ばれ、ヒンドゥー教でもっとも重要な聖典とされている。
五王子共通の妻となったドラウパディーはとても強い女性だ。彼女はイカサマ賭博のあと、公衆の面前で百王子の次男ドゥフシャーサナに服を剥がされそうになった。辱められたドラウパディーはカウラヴァを恨み、夫たちにカウラヴァを倒すようにと願い続ける。
一方、悪役のカウラヴァ陣営にも魅力的な人物がいる。両陣営の王子たちの成長を見守り、戦争を反対していた長老ビーシュマ。大戦争の元凶であるにもかかわらず、どこか憎めない百王子の長兄ドゥルヨーダナ。アルジュナのライバルであるカルナ。額に宝石がある戦士アシュヴァッターマン。聖仙から武術を習った最強のバラモンであるドローナは、アシュヴァッターマンの父であり、王子たちの師である。
「マハーバーラタ」では、パーンダヴァが正義であるが、現代では既存のルールや身分制度を壊し、新しい世界を作る存在としてカウラヴァが注目されることがあり、カウラヴァ側の人物を主人公にした小説や映画も登場している。「マハーバーラタ」は地方によってさまざまなバージョンがあり、内容を短くまとめた抄訳本や再話本もある。日本語に翻訳されている作品あるので、気になったら読んでみるのもおすすめだ。
冒頭の映像がわかれば、『カルキ 2898-AD』をより楽しめる!
『カルキ 2898-AD』は、「マハーバーラタ」の大戦争のクライマックスからはじまる。カウラヴァ軍の長老ビーシュマは死期を悟り、身体中に受けた矢を寝床にして戦場を見守る。パーンダヴァ軍のアルジュナの息子アビマニユは、孤立無援の状態で武器を奪われ、車輪(チャクラ)を手にして果敢に戦うが、敵に取り囲まれて惨殺されてしまう。
カウラヴァ軍のドローナは、「象のアシュヴァッターマンが死んだ」というユディシュティラの声を聞いて、息子のアシュヴァッターマンが戦死したと勘違いし、戦いを止めたところを殺される。ユディシュティラはクリシュナからの提案で、ドローナの戦意を挫くためにわざと言ったのだが、ドローナは高潔なユディシュティラの言葉を信じてしまったのだ。
その後、カウラヴァ軍は劣勢になり、ドゥルヨーダナはビーマに敗れる。父を騙し討ちにされ、主も倒されたアシュヴァッターマンは、復讐のためにパーンダヴァ軍を夜襲で皆殺しにしたあと、神の武器でパーンダヴァの血を引く胎児を殺す。アビマニユの妻ウッタラーの腹にいた子は、のちにクリシュナに命を救われた。
胎児殺しの罪を背負ったアシュヴァッターマンは、クリシュナに呪われ不死となり、額の宝石を奪われ、3000年間世界を放浪することになる(映画では6000年だが)。ヒンドゥー教の価値観では来世が救いであるため、現世を生きながらえることは最大の罰なのである。
また、カウラヴァにはもう1人、有名な戦士がいる。カルナだ。カルナは五王子たちを苦しめる悪役だが、本来は五王子たちの兄で、太陽神スーリヤの息子である。母クンティーは神の子を授かる呪文を使い、カルナを身籠ったが、結婚前だったので生まれてすぐに川に流した。拾われたカルナは御者の子として育ち、王子たちと一緒にドローナの教えを受ける。カルナは御前試合で身分が低いと五王子に馬鹿にされるが、ドゥルヨーダナに実力を認められ、アンガ国を得て王となった。ドゥルヨーダナとカルナは永遠の友情を結んだ。
カルナはアルジュナとの決戦のとき、埋まった戦車の車輪を引き上げようとしていたところを、アルジュナに射殺される。カルナは出自を知ったあともドゥルヨーダナに仕え、数々の呪いを受けつつも宿命の相手であるアルジュナと戦い、戦場に散った。悪役ながらその姿は今でも人々を魅了し続けている。