『カルキ 2898-AD』とインド神話「マハーバーラタ」のつながりとは!?これさえ知っていれば映画が120%楽しめる!
『カルキ 2898-AD』と「マハーバーラタ」のつながりとは?
では「マハーバーラタ」と、6000年後の未来がどうつながっているのだろうか。本作は、インド人が待ち望んだ「マハーバーラタ」の続きを、舞台を未来に移して描いた作品である。「マハーバーラタ」の中では、不死になり世界を彷徨う罪を背負ったアシュヴァッターマンが、その後どうなったかは語られていない。
しかし、本作は「マハーバーラタ」をただ焼き直したものではない。アシュヴァッターマンは未来の救世主を守るよう命じられるが、このような設定は「マハーバーラタ」には無い。ほかにもコンプレックスの主の目的など作中の謎は多く、映画がどのような結末を迎えるのか誰も予想できない。
また、映画のタイトルにもなっているカルキとは、ヒンドゥー教の主神であるヴィシュヌ神の十番目の化身である。白馬に乗り、剣を携えた姿で描かれるカルキは、世界の終末にあらわれる救世主とされる。「マハーバーラタ」よりも後の時代にできた聖典では、シャンバラで生まれたカルキが人々を救うという物語がある。
つまり本作は、インド神話の「マハーバーラタ」と「カルキ伝説」をミックスした世界を下敷きにしつつ、新たな解釈で未来を描いた作品なのである。
映画の舞台となるカーシーは、ガンジス川流域にあった古代王国の名前でもある。古代と神話とSFの融合はいかにもインドらしい構想である。設定を盛りすぎと思う人もいるかもしれない。
しかし、インドではかっこいい設定はいくら盛っても問題ない。むしろこれは古代から続く伝統だ。額に宝石があり、大地を揺るがす神の武器が使え、荒ぶるシヴァ神の力を宿し、呪いで不死になった最強の戦士アシュヴァッターマンが証明してくれる。山盛りの設定を楽しむのがインド映画の醍醐味と言えるだろう。
筆者は本作の日本公開を心待ちにしていたインド映画ファンの一人である。本作はインドでの公開前から日本でも話題になっていた。仮題「Project K」が「Kalki 2898 AD」と発表されたとき、プラバースの新作はいったいどんな作品なのかと心躍った。インドで一足先に本作を観た友人たちは、興奮気味に感想を語り、インド神話だと口を揃えて言った。そのため、観る前に心の準備はしていたつもりだった。しかし甘かった。それだけではなかった。
敵を圧倒する力があるにもかかわらず、ピュアな心を持ったバイラヴァは、プラバースのイメージにぴったりだった。人の命が軽すぎるディストピアで、運命に抗う女性を演じたディーピカー・パードゥコーンは、強く美しかった。そしてアミターブ・バッチャンのアシュヴァッターマンは、あまりにもアシュヴァッターマンその人だった。現代の生ける伝説が、神話時代の伝説の戦士を演じたのだ。ありがたくて手を合わせてしまった。
観終わったとき、インドに新たな神話が生まれようとしている、まさにその瞬間を目にすることができたのだと思い、思わず天を仰いだ。
『カルキ 2898-AD』は、インド神話を下敷きにした、壮大なスケールで描かれるシネマティック・サーガである。賞金稼ぎのバイラヴァは、本作でどのような役割を負うのか。アシュヴァッターマンは使命を果たすことができるのか。そして運命の子を宿した女性の運命は。ぜひ映画館で彼らの活躍をその目で確かめてほしい。
文/天竺奇譚