今後のシリーズ展望にも言及!「ロード・オブ・ザ・リング」最新作に挑んだ神山健司監督&フィリッパ・ボウエンにインタビュー
「神山監督がすばらしかったのはヘラの内面をとてもリアルに描いてくれたこと」(ボウエン)
――原作は数ページのボリュームです。そして、主人公のヘラに関しては名前も書かれていません。どのようにして物語や人物像を組み立てましたか?
神山監督「ヘラにあたるキャラクターは原作では“ヘルム王の娘”とだけ書かれていて、その生死すらも明らかにされていません。ただ、西境の領主の息子ウルフから求婚されるのですが、ヘルムが断ったことから戦争に発展してしまう。物語のきっかけになる人物ではありました。ヘラをどういうキャラクターにしていくか、というキャッチボールをフィリッパとは何度も繰り返して、事件へのかかわり方や戦士ではなかったヘラがどのようにしてローハンの民を救ったのかという設定をディスカッションして作っていきました」
――ボウエンさんはヘラをどのようなキャラクターとして捉えていましたか?
ボウエン「神山監督もおっしゃるように、ヘラは私たちの知らない、名前もないキャラクターで母親のこともまったくわからない。でも、テキストの行間にヒントがあるとは思っていました。戦士である父と2人の兄がいて、ちょっとトムボーイ(おてんば娘)な気質だったんじゃないでしょうか。父に愛され、自由を与えられて育ってはいたんですが、彼女が求めるようには見てもらえませんでした。ヘルムは娘を同盟国であるゴンドールへ嫁がせることが彼女の幸せであると考えていて、そのことでヘラは現実と向き合わざるを得なくなります。ヘラには主体性があって、なんでも自分でやってみようと試みる行動力も持っているのですが、そんな彼女でも戸惑うような状況に陥っていくのです」
――剣を手に取り、馬に乗って駆けるヘラはかっこよく、内面に抱える葛藤には大勢が共感しそうですね。
ボウエン「内戦によって国が引き裂かれてしまい、そのど真ん中にヘラがいるのです。すばらしい戦士ではありますが、怖くもなるし、状況がどんどん悪化してどのように対処していいかもわからなくなる。決して楽な道をたどってはいません。神山監督がすばらしかったのは、そんなヘラの内面をとてもリアルに描いてくれたことですね。あと、2人で話し合ったなかで特に気に入っているのが、ウルフの立ち位置です。興味深いですよね、敵として立ちはだかるわけですが、もしも彼とヘラが実は幼なじみだったらどうなるだろう?と想像したんです。かつての友が愛する人々を傷つけるのを目の当たりにして、ヘラはさらに思い悩むことになるわけですから。神山監督自身が優れたストーリーテラーでもあるので、『より深く、より遠くまで行こう』とアイデアを提供してくれました」
――劇中でヘラは“盾持つ乙女”と呼ばれます。「ロード・オブ・ザ・リング」に登場したローハンのセオデン王(バーナード・ヒル)の姪であるエオウィン姫(ミランダ・オットー)もまた、同じ呼ばれ方をされ、ヘラと似たような境遇にいます。エオウィンを意識することはありましたか?
神山監督「ヘラとエオウィンはとても似ているし、すごく意識しました。ただ、『ローハンの戦い』は200年前の物語なので、あまりにも同じになってしまったらこちらがオリジナルみたいな形になってしまう。なので、マネにはならないように気を遣いました。エオウィンのことを尊重しつつ、もしかしたら彼女も知らなかったかもしれない、でも脈々と受け継がれている剣をとって戦った女性の物語であることをすごく意識しました」