なぜ『ぼくのエリ 200歳の少女』に人々は魅了されたのか?スウェーデンの鬼才作家が描き続けた狂気と愛に迫る

コラム

なぜ『ぼくのエリ 200歳の少女』に人々は魅了されたのか?スウェーデンの鬼才作家が描き続けた狂気と愛に迫る

北欧映画がおもしろいと言われるようになってから久しいが、そこに名を連ねる新たな注目作が『アンデッド/愛しき者の不在』(公開中)だ。ノルウェーのアカデミー賞と位置付けられるアマンダ賞で6部門にノミネートされ、4部門を受賞した。1989年生まれの女性監督テア・ヴィスタンダルは本作の世界的な成功により、一躍注目の存在となった。

亡くなった最愛の人が“アンデッド”となって帰ってきた3組の家族を描く『アンデッド/愛しき者の不在』
亡くなった最愛の人が“アンデッド”となって帰ってきた3組の家族を描く『アンデッド/愛しき者の不在』[c]MortenBrun

本作が注目されている理由はもう一つある。それはスウェーデンの人気作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説を原作としていること。リンドクヴィスト作品の映画化には、『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)とそのハリウッドリメイク『モールス』(10)、『ボーダー 二つの世界』(18)があるが、いずれも観客の心を激しくざわつかせる衝撃作だった。となれば、『アンデッド』も同様であることは容易に想像がつくだろう。というわけで、ここではリンドクヴィストの過去の映画化作品『ぼくのエリ』、『ボーダー』を振り返りながら、注目の新作のテイストを検証してみたい。

最愛のパートナーを失ったばかりの老婦人(『アンデッド/愛しき者の不在』)
最愛のパートナーを失ったばかりの老婦人(『アンデッド/愛しき者の不在』)[c] 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

人間ではない“なにか”が社会に存在する様を描写

まず、誰の目にも明らかなのは、どの作品も人間ではないが人間のような“なにか”が登場すること。『ぼくのエリ』では吸血鬼が、美少女の容姿を借りて登場した。『ボーダー』のネアンデルタール人のような頭蓋を持つ主人公の正体も、実は人間ではない。そして『アンデッド』で登場するのはタイトルの通りアンデッド、ざっくり言えばゾンビ!前2作の人間ならざる者が人間社会にひっそり溶け込んでいたように、本作のアンデッドも生前の家族のもとへ静かに戻ってくるのだ。

【写真を見る】美しい吸血鬼の少女に出会った孤独な少年の物語『ぼくのエリ 200歳の少女』
【写真を見る】美しい吸血鬼の少女に出会った孤独な少年の物語『ぼくのエリ 200歳の少女』DVD 発売中 価格:1,650円 発売元:ショウゲート 販売元:アミューズソフト [c]EFTI MMVIII [c]EFTI_Hoyte van Hoytema

孤独や喪失感を抱えた登場人物たち

2つ目に挙げたいのは、リンドクヴィストが紡ぐ世界観の根底を支える、とてつもない孤独感。『ぼくのエリ』の主人公の少年はいじめられっ子だし、『ボーダー』の主人公はその容姿ゆえに疎外され、自身が普通ではないことを理解している。

醜い容姿のために孤独に生きてきた女性が自身と似た容姿の男と出会う『ボーダー 二つの世界』
醜い容姿のために孤独に生きてきた女性が自身と似た容姿の男と出会う『ボーダー 二つの世界』[c]Everett Collection/AFLO

『アンデッド』は3組の家族の物語だが、いずれも愛する者に先立たれており、その喪失感を埋められずにいる。この孤独は埋めることができるのだろうか?できるかもしれないが、それは簡単なことではない。なにしろ、先述したように“人間ならざる者”が人間のルールに縛られることなく絡んでくるのだから。

亡くなったパートナーが戻ってきた(『アンデッド/愛しき者の不在』)
亡くなったパートナーが戻ってきた(『アンデッド/愛しき者の不在』)[c] 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.


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