あなたも“手紙”が書きたくなる。『35年目のラブレター』や『きみに読む物語』など心温まる映画6選
手紙は“気持ち”を文字にして届けるもの。古今東西、人は大切な誰かに自分の想いを伝えたい時、手書きで手紙をしたためてきた。メールやSNSでのやりとりが主流になった現代においても、直筆で書かれた手紙は、互いの心にいつまでも残る特別なアイテムだ。
3月7日(金)より公開される映画『35年目のラブレター』は、読み書きができないまま大人になってしまった男性が、長年寄り添い支えてくれた最愛の妻に感謝の手紙を綴るため、夜間中学で文字を学んだという実話を映画化した心温まる物語。本コラムでは、手紙のパワーを再確認できる『35年目のラブレター』の魅力をはじめ、愛を伝える手段として“手紙”がストーリーを動かすカギとなる作品を紹介したい。
妻に感謝の手紙を書きたいと願う夫の挑戦を描く『35年目のラブレター』
『35年目のラブレター』の主人公は実在の人物、西畑保。メディアの報道によって彼の人生を知り、強い感銘を受けた塚本連平監督が自ら脚本を手掛け、西畑夫妻が歩んできた長い道のりを実写映画化した。保役に笑福亭鶴瓶、妻の皎子(きょうこ)役に原田知世、若き日の保と皎子を重岡大毅、上白石萌音が演じ、互いを深く想い合う夫婦の絆を体現している。
戦時下、過酷な幼少期を過ごしほとんど学校に通えなかった保は、文字を知らないまま大人になった。読み書きできないことが生きるうえでの障壁となりながら、寿司職人として必死に働いていた保は、やがて見合いで出会ったタイピストの皎子と結婚。以来、彼女は保の“手”になってずっと保を支えてきてくれた。妻に手紙で感謝の気持ちを伝えたい。その想いに突き動かされた保は、定年退職を機に夜間中学に入学し、文字を学び始める。
ひらがな、カタカナ、漢字…文字の種類が多い日本語を、老齢になってから初めて学ぶのは簡単なことではない。妻へ贈るラブレターも、当初に予定していたその年のクリスマスには間に合わず、それから何年もの歳月をかけて、ようやく一通の手紙を完成させる。何度もくじけそうになりながら、書いては直しを繰り返した手紙の文面は、文字の形はぎこちなく、文章もたどたどしく、誤字脱字もたくさん。なのに、その一文字一文字に、妻への想いがギュッとつまっているのが伝わってきて、見ているだけでこみあげるものがある。
保がずっと一人で抱えてきた苦しみや劣等感が、愛情深い皎子との出会いにより癒されていった若かりし頃、そして、2人の娘と孫にも恵まれ、夫婦で穏やかな日常を送る定年後の暮らし。2つの時間を行き来しながら描かれる物語は、さらにその先、保が夜間中学に入ってから20年後まで続いていく。やがて綴られる、深度がぐっと増したラブレターのすばらしさは号泣必至。長い長い時を越えても変わることのない愛の継続性を描いているのも本作の見どころのひとつである。
もともと保と皎子は、日頃から「ありがとう」と言い合う仲の良い夫婦。それでも、その一言ではとうてい足りないほどの妻への感謝の気持ちを表現する最良の方法が、保にとっては手紙だった。そばにいる大切な人に改めて想いを伝えたくなる珠玉の純愛映画だ。