『戦場のピアニスト』以来のオスカー受賞なるか?『キング・コング』『ダージリン急行』から『ブルータリスト』に至るエイドリアン・ブロディの独自の歩み
第97回アカデミー賞で10部門にノミネートされ、前哨戦のゴルーデン・グローブ賞でも主要部門を制したことから、作品賞受賞の期待もかかる注目作『ブルータリスト』(公開中)。第二次世界大戦下でナチスのホロコーストを生き延び、新天地を求めてアメリカに渡ったユダヤ系ハンガリー人建築家の夢と挫折を描いた3時間35分の壮大な叙事詩。20世紀を背景にしているが、現代社会への痛烈な批判が浮き彫りにされ、とてつもなく見応えのある力作となった。
本作で主人公ラースロー・トートに扮したエイドリアン・ブロディも主演男優賞にノミネートされ、有力候補と見られている。ご存じのとおり、ブロディは2002年の『戦場のピアニスト』で、史上最年少の29歳で同賞の受賞を果たした。今回はそれ以来、実に22年ぶりのノミネート。そんな彼の俳優としてのキャリアを改めて振り返ってみたい。
アカデミー賞受賞後はハリウッド大作で活躍!
ブロディは1973年4月14日、ニューヨークで生まれた。父は画家、母はフォトジャーナリストで、彼が表現者の素養を伸ばすには申し分ない環境だった。ちなみに両親は、いずれも東欧からのユダヤ系移民で、父はホロコーストで家族を亡くしている。『戦場のピアニスト』や『ブルータリスト』にも通じるバックボーンを、ブロディは持っていたのだ。
10代の頃から俳優として活動していたブロディだが、最初に注目されるようになったのは名匠テレンス・マリックの『シン・レッド・ライン』(98)。これがベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。以後、スパイク・リーやケン・ローチら名だたる鬼才に起用され、ロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』で若くしてオスカー俳優の仲間入りを果たした。
ここから重厚な演技派の道を歩むと思いきや、ブロディの選んだ道は少々意外なものだった。M.ナイト・シャマラン監督の『ヴィレッジ』(04)やピーター・ジャクソンの『キング・コング』(05)、人気SFシリーズの第3作『プレデターズ』(10)などのハリウッド大作への出演は、有名になった以上は当然だろう。しかし、これらの作品はいずれもアンサンブルキャストの色が濃い。オスカー俳優ともなれば主演スターの道も拓けるが、あえて一俳優として作品に貢献する道を選んだと見えなくもない。