『戦場のピアニスト』以来のオスカー受賞なるか?『キング・コング』『ダージリン急行』から『ブルータリスト』に至るエイドリアン・ブロディの独自の歩み
『ダージリン急行』をはじめウェス・アンダーソン作品に欠かせない一人に
それが最もよく表われているのは、ユニークな世界観を作りだしては賞賛されるウェス・アンダーソン監督の作品だ。『ダージリン急行』(07)以来、近作『アステロイド・シティ』(23)まで、ブロディは5度この異才と組んでいるが、いずれも群像劇に近いスタイルの作品であり、アンダーソンが生みだすどこかユーモラスでせつない独特の世界のなかに溶け込んでいた。ちなみに、同監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』(13)では今年のオスカーで主演男優賞を争う『教皇選挙』(3月20日公開)のレイフ・ファインズと共演している。
プロデュース業や海外資本の作品でも表現方法を磨いていく
また、ブロディは低予算のインディーズフィルムやジャンル映画に出演することも少なくない。教育現場の問題にメスを入れた社会派ドラマ『デタッチメント 優しい無関心』(11)やサスペンスアクション『クライム・スピード』(14)、スリラー『白い闇の女』(16)などでプロデューサーを兼任。これはキャリアの浅いフィルムメーカーたちをサポートすると同時に、映画製作により深く関わろうとする意志が見て取れる。それをさらに推し進めた『クリーン ある殺し屋の献身』(21)では主演と製作に加え、脚本や音楽にも手を広げた。
アメリカ以外の作品にも積極的に出演しており、カナダ製のSFスリラー『スプライス』(10)やイタリアンホラーの巨匠ダリオ・アルジェントと組んだ『ジャーロ』(09)、オーストラリアでは『心霊ドクターと消された記憶』(15)、中国では『ドラゴン・ブレイド』(14)や『エア・ストライク』(18)と、様々な環境で映画作りを経験していく。これもまた表現者として強い武器になっていることは想像に難くない。
アーティストの光と影を豊富な経験で体現した『ブルータリスト』
注目の最新作『ブルータリスト』はアメリカに加え、イギリス、ハンガリーの合作。主人公ラースローは家族を一刻も早くアメリカに呼び寄せたい一心で仕事に打ち込むが、建築家としてのこだわりは決して捨てたくない。そのため、アメリカ特有の拝金主義と、しばし対立することになる。娼婦を買ったり、麻薬に酔ったりと、その行動は聖人君子とはいえず、しばし自堕落にも映るが、それでもアーティストとしての生き方は譲れない。
そんな人間の多面性や、強い思いに説得力を与えているのは、これまで様々な作品に挑んできたエイドリアン・ブロディによる経験の賜物。晴れて2度目の受賞となるか?注目!
文/相馬学