ノミネート発表直前!“史上空前の大混戦”第90回アカデミー賞ではなにが起こるのか?
昨年の第89回アカデミー賞といえば、やはり授賞式での作品賞発表時に起きた“ボニーとクライド”による読み間違い事件のインパクトが強いだろう。日本でも大ヒットを記録したミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』が、名作『ベン・ハー』や『タイタニック』と並ぶ14ノミネート(13部門)を獲得し、授賞式でも監督賞など複数部門に輝くなど、すっかり祝杯ムードが漂う中で発表された作品賞。
往年の名優ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイによって『ラ・ラ・ランド』の名前が読み上げられると、同作の関係者たちは大喜びで壇上に上がった。するとそこで、衝撃的な事実が告げられる。読み上げられた封筒は作品賞ではなく主演女優賞のもので、本当の受賞作は『ムーンライト』であったと。アカデミー賞史に残るこのトラブルは大きな話題となった。
それからわずか1年も経たない間に、アカデミー賞の流れが大きく変化した。それはかつて“オスカーの申し子”と呼ばれたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが賞レース開始となる昨年10月にセクハラ問題が浮き彫りとなり失脚。芋づる式に数々の大物たちが、アカデミー賞はおろかハリウッド全体から冷たい視線を浴びることとなったからだ。
そうして幕を開けた第90回アカデミー賞戦線は、よくある謳い文句などではなく、正真正銘の混戦となった。前哨戦となる各地の批評家協会賞をリードしたのは、夏に全米でサプライズヒットを飛ばしたコメディ仕立てのホラー・ミステリー『ゲット・アウト』。
とはいえ、かろうじて頭ひとつ抜け出た程度で、最高で10作品がノミネートされる作品賞の枠を目がけて、多くの作品が横並びの状態となったのである。そして2018年になり、徐々に方向性が見え始めてくると、ようやく例年と変わらぬ“三つ巴”の争いとなる見方が強まってきた。
性犯罪を発端にしたサスペンスドラマ『スリー・ビルボード』は、賞レースが本格化する前に行われたトロント国際映画祭で観客賞を受賞。過去10年で5作がアカデミー賞作品賞に輝いている同賞の受賞を皮切りに、ゴールデン・グローブ賞の作品賞や過去10年で6作がアカデミー賞作品賞を受賞している俳優組合賞のキャスト賞など重要な前哨戦を相次いで受賞。一気に主役に躍り出たのだ。さらにフランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルが俳優部門で主役となることも期待されている。
また、ゴールデン・グローブ賞で監督賞にノミネートされなかったことで大きなブーイングが巻き起こったグレタ・ガーウィグ監督の『レディ・バード』も、土壇場でその存在感を伸ばし、キャスリン・ビグロー以来の女性監督の監督賞候補入り、そして受賞を期待する声が高まっている。
そして序盤から賞レースをリードしてきたギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』も、ファンタジー要素というアカデミー賞から遠いテイストのデメリットを跳ね飛ばし、俳優組合賞のキャスト賞を超える影響力を有する製作者組合賞を受賞。作品賞や監督賞はもちろん、演技部門と技術部門での大量ノミネートが期待される。狙うは『イヴの総て』が打ち立てた15ノミネートという不滅の記録に並ぶことだ。
他にも前哨戦で見せた底力を『ゲット・アウト』が維持し続けているのか、賞レース常連のメリル・ストリープは『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』でノミネート記録をさらに伸ばすことができるのか、クリストファー・ノーランが『ダンケルク』で悲願の監督賞ノミネートを果たすのか。作品賞のみならず、すべての部門で注目すべきポイントは尽きない。
また、近年勢いに乗るインディペンデント作品の健闘にも注目だ。昨年のサンダンス映画祭から高評価を死守し続けた『君の名前で僕を呼んで』と『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』、昨年の作品賞を受賞した配給会社A24が送り出す『フロリダ・プロジェクト(原題)』、そして新たに賞レースに名乗りをあげた配給会社Neonが自信を持って送り出す『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』。
下馬評通りの結果となるのか、それとも誰も予想しなかったサプライズが待ち受けているのか。史上稀に見るハイレベルな戦いが予想される第90回アカデミー賞のノミネートは、間もなく発表される。
文/久保田和馬