【リズと青い鳥 特集】映画音楽で今注目の電子音楽家・牛尾憲輔「山田尚子監督とバンドを組んだみたいだった」
吹奏楽部に所属する高校3年生の鎧塚みぞれと傘木希美、2人の友情と美しくも儚い青春の一幕を描いた『リズと青い鳥』(公開中)で、劇伴(劇中音楽)を担当した電子音楽家の牛尾憲輔。agraph(アグラフ)名義でのソロ活動が高い評価を受けるほか、電気グルーヴのサポートメンバーや元SUPERCAR中村弘二らと結成したバンドLAMAなど、多方面で活躍する牛尾に本作の音楽について語ってもらった。
本作の監督である京都アニメーション所属の山田尚子とは映画『聲の形』(16)に続いて2度目のタッグになる牛尾。山田監督とはクリエイターとして近い感覚があったようで、「山田監督とは『聲の形』を制作した際にすごく共鳴するところがあって、お互いにバンドを組んだみたいで光栄でした。聴いてきた音楽や好きな映画、アート作品の趣味の話がすごく合うんです。今まで、99年ベルリンの地下テクノレーベルの話がすぐにできる人なんていなくて、お互いに似た波長を感じましたね」と振り返る。
学校にある“音”を使った楽曲で物語を支える
山田監督との劇伴制作については「作品のコンセプトアートを一緒に考え、イメージを共有するところからスタートしました。ガラス越しに対象物を見るような抽象的な話し合いで、音をチューニングするようにお互いのズレをなくしていく作業でしたね」と説明する牛尾。さらに、「本作は主人公であるみぞれと希美以外が知ってはいけない物語に感じました。その感覚を突き詰めた時、学校にある物で音も表現すべきだと思ったんです。例えば、生物室のビーカーや音楽室の譜面、廊下を歩く足音など。そういった“物”の視点から彼女たちを見守るイメージです」とより具体的なイメージも明かしてくれた。
実際に、牛尾はモデルとなった学校を訪問し、学校の備品を叩いた音などをサンプリングして音作りに生かしている。「みぞれと希美の足音や譜面をめくる音など、動作音が音楽になっていく場面があります。そのような有機的な音と楽音が組み合わさり、良いバランスを保つことでキャラクターの心情に寄り添う表現になっていると思います」。
目指したのは“印象に残らない”音楽
一方で、牛尾は音楽の主役が劇中に登場するコンクールの自由曲「リズと青い鳥」であると考えている。「この映画を観た方が口ずさむ音楽は松田彬人さんの『リズと青い鳥』だと思いました。私としてはその曲を邪魔してはいけないと考え、印象的なメロディではなく、雰囲気と奥行きだけを作っていく作業でした。映画を観終わった時に、『リズと青い鳥』以外の音楽が印象に残っていないくらいが良いですね」。