【リズと青い鳥 特集】映画音楽で今注目の電子音楽家・牛尾憲輔「山田尚子監督とバンドを組んだみたいだった」
山田尚子作品の魅力とは?
かねてより、山田監督が手がける作品のファンで「監督の作品に登場するキャラクターは地に足がついている感じがします」と楽しそうに話す牛尾。「『たまこラブストーリー』(14)という作品で、キャラクターの1人が感情を『ワーッ』って吐き出す場面があるんです。思春期って気持ちの整理ができないことがあると思うのですが、その感覚が切実に伝わってくるんです。そして、そこまでの過程がすごく丁寧に描かれています」と山田監督作品に惹かれる理由を教えてくれた。
ソロ・プロジェクトや実写映画でも活躍
ソロ・プロジェクトであるagraphと劇伴制作との違いについては「agraphは最終的にOKを出すのが私であるという点が一番の違いですね。納期が決まっていないので、時間はいくらでもかけられますし、先鋭的なことにも挑戦できます。逆に劇伴は、限られた期間内で制作しなければいけません。ただ、それぞれの作業で培った音や作業方法を互いにフィードバックすることもあるので、ポジティブなところが多いです」。
エレクトロニカと言われる楽曲が中心のagraphとは違い、映画『聲の形』や本作ではピアノなどを使用した温かみのある楽曲も制作している。「私は生まれてこのかた電子音楽しか聞いてこなかった人間ですけど、家にはピアノがあったので、潜在的にそういった楽器を使う意識はあったと思います。ただ、使い方が譜面的ではないというか、シンセサイザーなど電子音楽を作る時と同じ方法で使用しています」。
『サニー/32』(18)や『モリのいる場所』(5月16日公開)など、実写作品の劇伴も手がける牛尾。「実写作品は編集前でもある程度の映像ができており、流れる時間や音楽のイメージが決まっているので、映像に合わせて楽曲を作ることが多いです。一方、アニメは画が最後にできあがるので、本作で言えばスタッフの方たちと作品イメージを共有しながら、試行錯誤して制作することが多いですね」と実写とアニメーションの違いも説明してくれた。
最後に映画の見どころについてたずねると、「ガラス細工のような、細やかな心情のやり取りが描かれたドキドキする作品です。物音一つ立てると彼女たちに気づかれてしまいそうで、呼吸さえ忘れそうになります。ぜひ、窓やビーカーの気持ちになって、みぞれと希美を見守ってください」と冗談っぽく笑いながら答えた。
監督・山田尚子とイメージを共有しながら『リズと青い鳥』の音楽を作り上げた牛尾憲輔。繊細に描かれるキャラクターの心の機微にそれらの音楽が加わり、どのような相乗効果を生んでいるのか。ぜひ、耳をすませて本作を楽しんでみてほしい。
取材・文/トライワークス