第76回ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門、映画俳優とテレビドラマ俳優の垣根がほぼ消滅!
米国ロサンゼルスで現地時間1月6日に行われた第76回ゴールデン・グローブ賞授賞式において、例年のごとくNetflixとアマゾンら配信事業者によるドラマが強かったが、それ以上に目立ったのが映画俳優のドラマ進出だ。
受賞者リストには、<ドラマシリーズ>主演女優賞のサンドラ・オー(「キリング・イヴ/Killing Eve」)、<コメディ/ミュージカルシリーズ>主演男優賞のマイケル・ダグラス(「コミンスキー・メソッド」)、<リミテッドシリーズ/テレビ映画部門>主演女優賞のパトリシア・アークエット(「Escape at Dannemora(原題)」、同部門助演女優賞のパトリシア・クラークソン(「KIZU-傷-」)、助演男優賞のベン・ウィショー(「英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件」)と、作品によっては映画部門でノミネートされていてもおかしくない面々が並ぶ。実際に、オープニングトークではドラマシリーズでノミネートされていたジム・キャリーを「絵を描いているのは知っていたけれど、ドラマまで!」といじるジョークがあったほど。
候補者まで見てみると、<ドラマシリーズ>主演女優賞にはジュリア・ロバーツ(「Homecoming(原題)」)、主演男優賞にジェイソン・ベイトマン(「オザークへようこそ」)、ステファン・ジェームズ(「Homecoming」)、<コメディ/ミュージカルシリーズ>主演男優賞にジム・キャリー(「Kidding(原題)」)、ドナルド・グローバー(「アトランタ」)、サシャ・バロン・コーエン(「Who is America?(原題)」)、<リミテッドシリーズ/テレビ映画部門>主演女優賞に、映画部門『ビール・ストリートの恋人たち』(2月22日公開)で助演女優賞を受賞したレジーナ・キング(「運命の7秒」)、映画部門助演女優賞にも『バイス』(4月5日公開)でノミネートされているエイミー・アダムス(「KIZU-傷-」)、助演女優賞にペネロペ・クルス(「アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺」)、主演男優賞にアントニオ・バンデラス(「ジーニアス:ピカソ」)、ダニエル・ブリュール(「エイリアニスト」)、ベネディクト・カンバーバッチ(「パトリック・メルローズ」)、ヒュー・グラント(「英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件」)、助演男優賞にアラン・アーキン(「コミンスキー・メソッド」)、キーラン・カルキン(「キング・オブ・メディア」)…と、キリがない。
およそ10年前にはまったく考えられなかった状況がすでに当たり前となり、クリエイターも俳優たちも映画とドラマを自由自在に行き来する。また、配信事業者の台頭によって公開時差も格段に解消された。Netflixの日本上陸以前は、ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞が発表されても受賞作品を観ることができるのは数か月先であり、そのころには賞レースの興奮などすっかり冷めてしまっていた。すべての作品ではないが、ノミネート発表を機会に作品を鑑賞し、下馬評や海外評だけでなく、自分の目で観て受賞予想することも可能になった。そして、列記したノミネーションリストから“原題”表記が減っている。映画出身クリエイターや俳優がテレビシリーズに進出することにより、海外番組販売が促進され、日本で観ることのできるドラマの数が増えている。この流れはいまのところ、映画ファン、ドラマファンにとって歓迎すべき状況であるように思う。弊害があるとすれば…世界中で同じドラマが観られるようになったことによる画一化、特に多くのドラマを製作・輸出している米国の価値観がワールド・スタンダードかのように受け取られてしまうことかもしれないが、ゴールデン・グローブ賞授賞式における受賞者のスピーチを聞く限り、多様な価値観を受容するクリエイターたちの矜持は保たれているのではないだろうか。
主要部門の受賞結果は以下の通り。
<ドラマシリーズ>
作品賞 「ジ・アメリカンズ」
主演男優賞 リチャード・マッデン(「ボディガード -守るべきもの-」)
主演女優賞 サンドラ・オー(「キリング・イヴ/Killing Eve」)
<コメディ/ミュージカルシリーズ>
作品賞 「コミンスキー・メソッド」
主演男優賞 マイケル・ダグラス(「コミンスキー・メソッド」)
主演女優賞 レイチェル・ブロズナハン(「マーベラス・ミセス・メイゼル」)
<リミテッドシリーズ/テレビ映画部門>
作品賞 「アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺」
主演男優賞 ダレン・クリス(「アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺」)
主演女優賞 パトリシア・アークエット(「Escape at Dannemora(原題)」)
<両部門共通>
助演男優賞 ベン・ウィショー(「英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件」)
助演女優賞 パトリシア・クラークソン(「KIZU-傷-」)
文/平井伊都子