パワハラ告発、企業の闇…『七つの会議』香川照之と及川光博が語る、池井戸作品の醍醐味
野村萬斎が初のぐうたらサラリーマン役
主演の野村萬斎は狂言界の至宝だが、初のサラリーマン、しかも最低限のノルマしか果たさないぐうたら社員役という点も新鮮だ。香川によると萬斎が「福澤組を含め、現代劇ではキャリアがないことを気にされていました」とのことで、感情表現のさじ加減が手探り状態だった時に、同じ役者の立場から萬斎に寄り添うこともあったよう。
「萬斎さんは狂言でもともとすごい熱量や声量を出される方だから、それをどこまで抑えるべきなのか?と悩まれていました。だから、福澤組を何度も経験している僕としては『出していいと思います。時代劇のような感じでいきましょう』という方向性を、失礼ながら申し上げました。とはいえ、佇まいがしっかりされているから、たとえ出しすぎても絶対に崩れない。ただ、ぐうたらな役だったので難しかったと思います」。
及川も萬斎について「どこまでフランクに接すればいいのか」と戸惑ったそうだ。「萬斎さん自身がまとっているオーラがやはりミステリアスで、まさに“結界”みたいなものが張られている感じでした。八角も謎めいた役で、原島はずっと彼の存在が気になっているという設定だったので、そこはシンクロするところがありました。でも、撮影が進むにつれてだんだん気さくに話しかけてくれるようになり、最後の打ち上げでは“萬ちゃん”と呼んでいました(笑)」。
映像化されたドラマや映画も評価が高い池井戸作品。2人は映像化された作品ならではの醍醐味をどう捉えているのか。及川は「一番大きな違いは、俳優が演じているという点でしょうか。香川さんもそうですが、表情の迫力ってあると思います。香川さんの表情はまさに芸術の域で、人間の表情筋ってなんて細かく動くのだろう!と驚きます。そこは活字よりもダイレクトに視覚に訴えるパワーではないかと」と言ったあと、香川に「表情筋体操とかしてますか?」とおちゃめに尋ねる。
香川は「してない、してない」と笑ったあとで「池井戸さんの小説は、池井戸さん自身が実体験として持っている会社の暗部、あるいはそうに違いないと感じている組織のダークな部分が感じ取れることだと思います」と、まずは池井戸小説の魅力についての持論を述べた。
さらに「映像化作品では、そのダークさそのものを見るのではなく、主役のキャラクターに投影されたものを観ることになる。そこが映像化された時の福澤監督の力かなと。『半沢直樹』なら、銀行の暗部を、(主演の)堺雅人自体が持っている反骨心のようなものに全部反映されるんです。この映画でも、萬斎さんのシニカルな感じのなかに、東京建電という会社の暗部が全部投影されています。会社の抽象性を登場人物に具象化するところが巧い」と分析。
及川が「すばらしいコメント力。だから人間が演じるという意味と意義がちゃんと表れているということですよね」と感心すると、香川は「いや、ミッチーの言っていることを聞いて、こういうことなんだろうなと思いました」とうなずいた。
原作の世界観を見事に体現した“俳優力”に注目し、実力派スターたちの演技合戦を隅々まで堪能していただきたい。
取材・文/山崎 伸子