竹内まりやが語る、拒絶できない“生”を歌い続けた40年、作品に託したささやかな希望
「オリジナルの歌詞が持っている意味合いを、できるだけそのまま伝えたい」。いまなお幅広い世代から愛されつづけるディズニーの名作アニメーション映画を、鬼才ティム・バートン監督が実写化した『ダンボ』(公開中)で、日本版エンドソング「ベイビー・マイン」を歌う竹内まりやは、楽曲に込めた想いをこのように明かす。オリジナルのアニメーション版で劇中歌として使用された原曲は、第14回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされ、その後も様々なアーティストによって歌い継がれてきた名曲。それを日本語でカバーするにあたって竹内は、自ら歌詞の翻訳監修も務めている。独占インタビュー後編となる今回は、「ベイビー・マイン」の制作にまつわる秘話や、滅多にメディアに露出することのない竹内自身の、知られざる創作活動の内面について話を聞いた。
1955年生まれの竹内まりやは、慶應義塾大学在学中の1978年に歌手デビュー後、「September」「不思議なピーチパイ」などがヒット。山下達郎との結婚後は作家としても多くの作品を他アーティストに提供しながら、1984年には自らの歌手活動を再開。以降、“シンガーソング専業主婦”として「シングル・アゲイン」「毎日がスペシャル」などのヒット曲を出しながらも、家庭を優先する独自のスタンスで音楽活動を続け、結婚後にリリースしたオリジナルアルバムはすべてオリコン1位を獲得している。2018年11月にはデビュー40周年を迎え、様々な記念企画が進行中だ。
「母親がダンボに寄せる想いは、“あなたであることだけで素晴らしい”だったのではないか」
「はじめにオファーをいただいた時は、すごく意外に思いました。いまこの時代に公開されるディズニー映画なのだから、幼いお子さんがいるような世代の方が歌われるものだと思っていましたから。でも、娘が小さい時に一緒に観ていた名作の、あの楽曲を歌えるというのは喜びでしたね」と述懐する竹内。「ディズニーさんからは『親子愛だけでなく、人間愛にまでふくらませた普遍性を持たせてほしい』というご要望をいただきました。たしかに母親が子どもに向けて語りかける歌でもあるんですけれど、それは友達が友達を励ます歌であってもいいし、恋人同士のことでもいい。どんな関係にも当てはまるように書いたつもりです」と、翻訳作業について振り返る。
そして「『たとえ冷たい言葉を受けても』というフレーズは、出来るだけ英語詞に忠実に書きたいと思っていました」と明かす。この部分は、オリジナルの楽曲では「If they knew sweet little you. They’d end up loving you too」と綴られている。「英語ではかなり多くの意味を伝えられても、子音が少なく平坦な日本語の場合は字数にはめていくことに制限があります。ぎゅっと圧縮して重要なことを言わないといけないので『本当のあなたをみんな知る日が来るわ』という言葉を選んだのです。つまり“本当のあなた”というのは“あなたであることだけで素晴らしい”、ありのままという意味。きっと母親がダンボに寄せる想いもそうだったのではないかと思っています。だからこの楽曲はとても救いのある曲なんです。本当にいい曲を与えてもらいました」。
言葉を適切な長さに当てはめていくことに加え、劇中でサーカス団の一員ミス・アトランティスが歌うシーンがあるため、その口の動きに合わせる“リップシンク”も課題のひとつだったという。そして「日本語詞ならではの素晴らしさがあるのと同時に、やはり英語のニュアンスを越えられない部分も出てきますから」と、「ベイビー・マイン」の英語バージョンを作る予定があることを教えてくれた。
「『ベイビー・マイン』が持つ優しさに、スウェーデン流の音作りがぴったりハマりました」
「ザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが歌ったバージョンの『ベイビー・マイン』もすごく好きで、初めはそのような編曲にするのもいいかなと考えていたのですが、私が歌うのであれば、すごく王道のバラードにアレンジした方が合うだろうと思ったんです」と、編曲作業の裏側を語る。「その時に(山下)達郎とかスタッフの方々とお話をして『今までお仕事したことのないアレンジャー(編曲家)とやってみようか』ということになり、スウェーデンのアレンジャーにお願いすることに。そうしたら一番最初に送られてきたデモテープの時点で、私がイメージしていた雰囲気にぴったりで『これだったら歌える!』と思えたので、やり取りのなかで細かな要望を出して全体を整えていきました」。
また今回の楽曲のバッキングコーラスには、彼女のプロデューサーであり、私生活のパートナーでもある夫・山下達郎が参加していることも話題を集めている。「彼に曲を聴いてもらって『これに達郎のコーラスが間奏で入ると、とても良いと思うんだけれど』と提案したら、『あ、いいよ』という感じでした(笑)」と、ともにトップアーティストとして高め合う2人らしいエピソードが参加の経緯としてあったのだという。「初の達郎とスウェーデンのアレンジャーの組み合わせで、ちょっと面白い化学反応が生まれたかなと思っています。『ベイビー・マイン』という曲が持つ優しさにもスウェーデン流の音作りがハマって、ぴったりのアレンジになりました」と、確かな手ごたえをのぞかせていた。