絶望を照らすひとすじの光…『楽園』とあわせて観たい“心にズシンと響く”重厚な映画6選
綾野剛、杉咲花、佐藤浩市という豪華キャストと、多くのヒット作を生み出してきた瀬々敬久監督が、吉田修一の小説を映画化した『楽園』(10月18日公開)。未解決の事件をきっかけに、それぞれ心に傷を負った人たちの姿を重厚に描いていく。ここでは、この作品を様々な方向からひも解き、一緒に味わいたくなる名作たちも紹介しよう。
映像化不可能なサスペンスを、大胆なアレンジで映像化!
『楽園』は、『パレード』(09)、『悪人』(10)、『横道世之介』(12)など、これまで数々の作品が映画化され、ヒットを飛ばしてきた吉田修一の「犯罪小説集」が原作。「青田Y字路」と「万屋善次郎」という二つの短編を、大胆に組み合わせて映画化している。もともとはつながりのない二つの物語を、Y字路や犬、夏祭りなど、劇中で重要な役割を果たしているアイテムによってリンクさせ、作品を重層的な物語へと構築している。
このように小説を映画にする際には、大胆なアレンジを施すこともしばしば。それにより成功を収めたものが、デヴィッド・フィンチャー監督がギリアン・フリンの小説を映画化した『ゴーン・ガール』(14)。結婚生活5周年の日に起きた妻の失踪事件をきっかけに、夫婦生活の暗部をミステリアスに映し出した作品だ。
夫婦それぞれの主観をメインに物語が進行していき、夫婦の気持ちのズレや人の心の醜さなど、心理的な側面をグロテスクに描写する原作。一方、フリン自身が脚本を手掛けた映画では、客観的な視点が入ることで夫への妻の復讐劇というニュアンスが強くなり、より映画との相性の良いエンタメ的な作品へと仕上がっている。
邦画では、湊かなえの代表作を中島哲也監督が映画化し、一人娘を生徒たちに殺された女性教師の復讐を描いた『告白』(10)も、大胆なアレンジでヒットを記録した。物語の視点の配分を大きく教師に割り振ったことや、中島監督らしいスローモーションを多用した映像ならではの表現方法。さらには、原作にはないラストと外連味たっぷりの台詞回し、映画全体にそこはかとない不気味さが漂う、衝撃的な作品として話題を呼ぶことになった。
事件をきっかけに狂っていく“人間たち”にゾッ!
次に『楽園』のあらすじもチェックしていきたい。ある田舎のY字路で起きた少女失踪事件から12年、少女が姿を消す直前まで一緒に過ごしていた紡(杉咲花)は、そのことから今も心に深い闇を抱えていた。ある日、同じく心に傷を持つ孤独な青年の豪士(綾野剛)と出会い、次第に心を通わせていくようになる。しかし、12年前の現場で再び同様の事件が発生すると、かつての事件を思い出した住民たちから豪士に疑いの目が向けられてしまい、追い込まれた豪士は、ついにある衝撃的な行動をとってしまう…。
その一部始終を眺めていた善次郎(佐藤浩市)は、12年前の事件の頃にY字路に続く集落にUターンして以降、愛犬のレオと共に穏やかに暮らしていた。しかし、生業とする養蜂で村おこしの計画がこじれたことで、村人たちから孤立。12年前の事件の犯人扱いをされるなど、村八分にされ、そして想像を絶する事件を起こしてしまう…。本作は、事件の謎解きよりも関わった人間たちの感情を深掘りしていくことで、単なるミステリーではない、重厚な人間ドラマとしての要素を色濃くスクリーンに映し出している。
ある事件をめぐり、人々の人生が狂っていくという点では、クリント・イーストウッド監督の『ミスティック・リバー』(03)が挙げられるだろう。犯罪から足を洗い雑貨店を営むジミー、平凡な日々を送るデイヴ、FBI捜査官のショーンの3人は、幼なじみだったが、11歳の時にデイヴが性犯罪の被害に遭ったことを機に、離れ離れになっていた。
それから25年後、ジミーの娘が遺体で発見されてしまい、ショーンが事件を担当することに。すると捜査線上にはデイヴが容疑者として浮かび上がってくる…。事件の真相、そして男たちの関係の行方はどうなってしまうのか…ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケヴィン・ベーコンという、ハリウッド屈指の俳優たちの重厚な演技は鳥肌モノだ!
また、実際に1980年代後半に韓国で起きた華城連続殺人事件を題材としたポン・ジュノ監督作『殺人の追憶』(03)は、未解決事件ならではの人間の闇を覗き見るような作品。つい最近、事件の犯人が判明したというタイムリーなニュースでも話題を呼んだこの作品は、性格が正反対な二人の刑事が事件解決を目指し捜査を行うという物語だ。
犯人に迫っていくスリリングな展開もさることながら、事件の闇に飲み込まれていき徐々に正気を失っていく刑事たち、作品全体に漂う不穏感、寒気を覚えるラストのあるフレーズ…。実際の事件だからからこそのリアリティには、おぞましさを感じてしまうことだろう。
『楽園』とも関係の深い作品をチェック!
そして最後に『楽園』のキャスト・スタッフとの関係のある作品をチェックしていきたい。
吉田修一原作×李相日監督の『怒り』(16)は、ある残忍な殺人事件の後に東京、千葉、沖縄にそれぞれ現れた犯人と思しき身元不明の男と、彼らの周りの人たちの関係がつづられていくという作品。どこか怪しげな雰囲気をまとった人たちと、そんな彼らを愛し受け入れることができるのかと悩み葛藤する人々の人生が動いていく様子が、豪華キャストの心のこもった演技と共に描かれていく。
綾野剛は本作にも出演しており、東京に現れる住所不定の男・大西役を熱演。妻夫木聡扮する藤田との、貪るようにキスを求め合う激しいラブシーンも大きな話題を集めた。
瀬々敬久が監督を務め、佐藤浩市と綾野剛が共演したのが、横山秀夫の小説を前後編で映画化した『64-ロクヨン-』(16)だ。わずか7日で終わった昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件から14年、時効が迫る中、かつてこの事件に関わっていた広報官が、新たに発生した模倣事件や娘の家出、周囲の人物との確執などのいくつもの問題に直面する姿を描く。
同時に訪れる様々な困難にも、何とか踏ん張ろうとする広報官・三上を演じた佐藤の人間味のある演技や、瀬々監督らしい緊迫感あふれる演出など『楽園』にも通じる部分も多い必見の1本だ。
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吉田修一の最高傑作と呼ばれる「犯罪小説集」を原作にアレンジを加え、さらに役者たちの熱演と瀬々敬久監督の確かな手腕が加わり、絶望のなかでも人の心を照らす“希望”を巧みに描きだした『楽園』。ぜひ今回紹介した作品と共に鑑賞してみて、その質の高さを感じてもらいたい。
文/トライワークス
■『ゴーン・ガール』
Blu-ray 発売中
価格:1,905円+税
発売・販売元:20世紀フォックス
■『告白』
DVD 発売中
価格:2,800円+税
発売・販売元:東宝
■『ミスティック・リバー』
Blu-ray 発売中
価格:2,381円+税
発売・販売元:ワーナー・ブラザーズ・ホームエンタテインメント
■『殺人の追憶』
DVD 発売中
価格:1,500円+税
発売・販売元:株式会社KADOKAWA
■『怒り』
DVD 発売中
価格:3,800円+税
発売・販売元:東宝
■『64-ロクヨン-前編/後編』
豪華版DVDセット 発売中
価格:8,800円+税
発売元:TBS
販売元:TCエンタテインメント