“園子温ワールド”を体感せよ!最新作『愛なき森で叫べ』と過去作との共通点とは?
『冷たい熱帯魚』(2010年)
『愛なき森で叫べ』同様に実際に起きた事件から着想を得た猟奇ホラー作品である本作。小さな熱帯魚店を営む社本信行(吹越満)は、ある日娘の万引き現場を村田(でんでん)によって救われる。大型熱帯魚店を経営する村田は、娘をバイトとして雇い入れ、至れり尽くせりの親切ぶりに、社本は村田夫婦と懇意になっていくが、それは村田の極悪非道な「ビジネス」の恐るべき前兆だった…。
登場人物の名前が「村田」や「美津子」「妙子」といった園監督作品ならではの共通点はもちろんのこと、『愛なき〜』では椎名桔平演じる“村田”に支配されて壊れていく男・尾沢茂を演じているでんでんが、本作では“村田”という猟奇的な詐欺師兼殺人犯を演じている真逆の設定となっている点も興味深い。観る人の心理を蝕んでいくような、でんでんの演技力にも注目の1本だ。
『恋の罪』(2011年)
本作も、1990年代に世間を震撼させた殺人事件にインスパイアされ作り上げられたサスペンスドラマ。幸せな家庭を持ちながらも、愛人との関係も切れずにいる刑事の和子(水野美紀)は、大学準教授でありながら渋谷の古いアパートで死亡した美津子(冨樫真)の事件を担当することになる。そして、その事件を追ううちに人気小説家の 妻・いずみ(神楽坂恵)の秘密も知ることになり、それぞれ立場の違う3人の女性たちの表と裏の顔が徐々に明らかになっていく…。
閉塞的な社会の中で破壊的な衝動を抱える女性たちが、狂気とともに自身の存在意義を求めていくさまは、『愛なき森で叫べ』で詐欺師・村田の中で抑圧されていく女性たちに通じる部分がある。他にも「美津子」といった名前や、大学教授というキーワード、登場人物たちの二面性など、『愛なき〜』へと通じる人間の深層が描かれている。
『ヒミズ』(2011年)
古谷実の同名漫画を映画化した本作は、染谷将太と二階堂ふみにヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)日本人初受賞をもたらした、園監督渾身の1本。親からの愛情を受けずに育った中学生の住田(染谷将太)は、クラスメイトの茶沢(二階堂ふみ)やホームレスの夜野(渡辺哲)たちに囲まれながら“一生普通に暮らすこと”を夢見て生活していた。しかし急に母親が愛人と蒸発し、家業であるボート屋で日銭を稼いでいる最中、衝動的に父親を殺してしまう。もう普通になれないと考えた住田は“社会の悪”を殺すために夜の街に繰り出すが...。
冒頭で雨に打たれながらヴィヨンの詩を読み上げるなど、文学に陶酔する女学生である茶沢の姿からは、『愛なき森で叫べ』の美津子や妙子たちの高校時代に通じる面を見出すことができる。また、殺人を機に自身の行為を正当化していく主人公の狂信的な発想も、『愛なき〜』の狂気的な展開に通じる部分と言えるだろう。
『愛なき森で叫べ』(19)
そして最新作『愛なき森で叫べ』は、1995年を舞台にした狂気と愛憎が渦巻く戦慄のサスペンス・スリラー。上京したばかりのシン(満島真之介)は、ジェイ(YOUNG DAIS)とフカミ(長谷川大)に声をかけられ彼らの自主映画に参加。そしてジェイたちの知人で、高校時代にクラスメイトが交通事故で急逝する事件から未だのがられれずにいた妙子(日南響子)と美津子(鎌滝えり)に出演を依頼する。
世間が銃による連続殺人事件に震撼していた頃、美津子の元に村田(椎名桔平)から電話がかかってくる。彼は「10年前に借りた50円を返したい」と美津子を呼び出し、巧みな話術とオーバーな愛情表現で彼女の心を奪っていく。しかし村田の正体は冷酷な天性の詐欺師。彼の本性を知ったシンたちは、村田を主人公にした映画を撮り始めるが、事態は思わぬ方向へ転がり始めていくことに…。
世界中で蔓延している事件の被害者の姿、そして彼らが加害者に転じてしまう人間社会の恐ろしさと闇をあぶり出す本作は、現在Netflixで全世界190カ国へ配信されている。嵐が過ぎ去ったこの連休中に、これまでの“園子温ワールド”をおさらいして、世界中が震撼すること間違いなしの最新作をじっくりと堪能してみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬