【短期集中連載】藤原竜也という才能<2> 殺人犯、包帯男、カイジ…30代の藤原竜也はメーターを振り切る!
主役を張れる二枚目俳優と言えば、若いころには青春モノやラブストーリー作品に出演していることが多い。そんななか、15歳でデビュー以降、女子が憧れる王子様でも、親しみやすい好青年でも、正義感あふれるヒーローでもなく、“特異な”キャラクターを次々と演じてきたのが藤原竜也である。その傾向は、30代を迎えてからいっそう色濃くなると同時に、役の幅も広がっていった。
「クズの役しかこなくなった」と過去に笑ってコメントしたこともある藤原。しかし、単純にクズと言い切れるような役は、実はそれほど多くない。“日本一クズが似合う男”という異名を決定づけた作品は、なんといっても2013年の三池崇史監督による『藁の楯 わらのたて』だろう。彼が演じた清丸国秀は、少女暴行殺人罪で服役し、仮出所中に同様の犯行におよんだ凶悪犯。「カイジ」シリーズのダメ男、伊藤カイジは根がいいヤツなのに対し、清丸は正真正銘、最低最悪のサイコパスだ。狂気的な犯罪もさることながら、劇中のすべての言動が、ほかの登場人物と観客の気分を害するものばかり。藤原は、そんな日本国民全員を敵に回すような悪役に怖気づくことなく、『カイジ』や『デスノート』の時とは違う静かな芝居を通して、清丸の異常性をより際立たせることに成功した。クライマックスで、清丸が淡々とした表情と口調で最後の一言を放つシーンは、背筋がゾッとする恐ろしさだった…。
2014年に二作連続で公開された『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』では、主人公である緋村剣心の宿敵かつ、物語の大きなカギを握る志々雄真実を怪演した。彼の底知れない野心を危険視する明治政府によって身体を焼かれたという過去を持つため、全身を包帯でグルグル巻きにしたミイラのような異様なビジュアル。包帯の隙間から目と口元しか見えないのに、圧倒的なオーラを発する志々雄は、まさにカリスマ性を備えた俳優でなければ成立しなかった難しい役だ。また、藤原のトレードマークでもある低音のハスキーボイスも役のイメージにマッチ。弱肉強食の社会を目指しながら、自分を信じて慕う者には手を差し伸べるなど、深みのあるキャラクターに魂を吹き込み、コアな原作ファンからも熱狂的な支持を集めた。
スペシャルドラマと連続ドラマからスクリーンに…という流れをたどった2015年の映画『ST 赤と白の捜査ファイル』は、警視庁科学捜査研究所に新設された通称”ST”と呼ばれる科学捜査班が舞台。「カイジ」シリーズの佐藤東弥監督が、藤原の新たな魅力を引きだすべく当て書きしたという天才分析官の赤城左門は、変人ぞろいのSTメンバーのなかでも、とりわけクセの強いキャラクターだ。
プライドの高いオレ様キャラにして、繊細すぎるコミュ障。頭脳明晰なのに、どこか子どもっぽい。そんなギャップがたまらない魅力であり、毒舌のせいで現場の捜査員たちに嫌われながらも、実質的なリーダーとして信頼されている人物でもある。特に、岡田将生演じる生真面目でお人好しなエリート刑事の百合根に対して辛辣に接するものの、心のなかでは唯一無二の親友として大切に思っている赤城の不器用な男性像は、藤原にとって記念すべき“ツンデレ”キャラで、思わずキュンとさせられる人が続出した!
2017年の『22年目の告白‐私が殺人犯です‐』で藤原が演じたのは、時効を迎えた22年前の連続殺人事件の犯人を名乗り、事件にまつわる告白本を発表してサイン会を開いたり、テレビ番組に出演したりして、日本中を翻弄していく謎の男・曾根崎雅人。これまで藤原が演じてきた数々の役を思い返せば、いかにも!なキャラクターだが、観客が抱いた予想通りにはいかない。入江悠監督から声のトーンや台詞の言い回しまで細かく演出された藤原は、感情をグッと抑えた演技のなかに、秘めた苦悩や葛藤を滲ませて新境地を拓いた。
そして近年、もっともぶっ飛んだキャラクターを演じた作品は、恩師・蜷川幸雄の娘である蜷川実花監督と初タッグを組んだ2019年の『Diner ダイナー』だろう。殺し屋専用の食堂<ダイナー>を営む、元殺し屋の天才シェフ、ボンベロ。使えないウェイトレスや迷惑な客はすぐに始末するという危険すぎる人間だが、自分なりの美学も持ったクールな男だ。
蜷川実花監督が本作で目指したのは、ずばり、演技の上手さゆえに目立たなくなっている藤原のルックスの美しさに焦点を当てること。極彩色の蜷川ワールドに映え、妖艶さすらある藤原の男としてのカッコよさを再確認できる絶好の一本となった。ちなみに本作には仕掛けがあり、劇中でボンベロが深い恩義を感じている、いまは亡き殺し屋組織のトップ、デルモニコの肖像画には蜷川幸雄の姿が描かれている。ボンベロ×デルモニコ=藤原竜也×蜷川幸雄の絆の強さが重なって見える粋な演出だ。
オファーを受けた役柄に無限のアプローチで迫っていく藤原竜也。「こんなハードルの高い役をいったい誰が演じるのか」という時に、「彼をおいてほかにはいない」と監督たちに言わしめる特別な俳優だ。そんな彼が、最新作『カイジ ファイナルゲーム』(1月10日公開)でどんな突出した存在感を見せつけてくれるのか、ますます期待が高まる!
文/石塚圭子
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