「BTTF」のオマージュも!?『ひつじのショーン』監督が最新作の秘密を語り尽くす!<写真30点>
また本作では、アードマン作品としては『ザ・パイレーツ!』以来となるシネマスコープサイズのアスペクト比が採用されている。「前作からクリエイティブ面で意識的に大きな変化をさせようと思ったのがアスペクト比だったんだ」と明かすウィルは、その理由としてもうひとつ「シネマスコープは最もSF映画に向いているアスペクト比だからね」と、本作がSF映画であることを強調する。「僕やリチャードは80年代に映画を観ていた子どもたちだったから、古典的なSF映画のアスペクト比、とくにスティーヴン・スピルバーグ監督の映画の空気感を意識していたんだ。冒頭のシーンで牧場にミステリーサークルが現れるのをワイドな画面で見せるのは、とても魅力的なオープニングになるだろ?」。
そのミステリーサークルのシーンでは、M.ナイト・シャマラン監督の『サイン』(02)を意識したとのことで、劇中には他にも数多くのSF作品のオマージュが見受けられる。『未知との遭遇』(77)や『E.T.』(82)といったスピルバーグ作品はもちろんのこと、『2001年宇宙の旅』(68)や『エイリアン』(79)といった往年の名作から、「X-ファイル」に至るまで。そこでウィルが一番好きなSF映画を訊ねてみると「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だよ。初めてテレビで観た時に、とにかくマジカルで楽しくてグッときたんだ!」と即答。もちろん『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)のオマージュも本作にこっそりと隠されているらしく「牧場主が作ったテーマパークを訪れるお客さんに注目してほしい。それと宇宙船の壁もよく見るとデロリアンのエンジンをモチーフにしているんだ」と楽しそうに教えてくれた。
さらに劇中には、“アードマンSF”の代名詞とも言える『ウォレスとグルミット<チーズ・ホリデー>』(89)の映像が一瞬だけ登場するというファンにはたまらないサービスに加え、ルーラたちを追うエージェント・レッドの相棒ロボット“マギンズ”にも既視感を覚えることだろう。「マギンズは旧式のなんの役にも立たないロボットというコンセプトで、かつてはハイテクでイケていたのに、いまではただのファイリングキャビネットになっているというユニークな設定なんだ」と明かすウィル。本国イギリスで公開された際に、このマギンズの動きや見た目、引きだしのギミックが『チーズホリデー』に登場する月の管理人こと“オーブンレンジ”に似ていると言われ、ハッとしたという。
「作っているときにはまったく意識していなかったけど、やっぱり小さいころに『ウォレスとグルミット』を観て育ってきているから、計り知れない影響を受けているんだと思う」と、ニック・パークとピーター・ロードの偉大さを語る。「2人は最初から最後まで、本作に深く関わってくれたんだ。この『Farmageddon』(本作の原題)というタイトルも、話し合いの最中にダジャレ好きのニックが言ったものなんだ(笑)。それにニックもピーターも、そしてデヴィッド(アードマンの共同創業者で本作で製作総指揮を務めているデヴィッド・スプロクストン)も、半年ごとに進捗を確認しに来てくれて、その都度感想を言ってくれるんだ。本当に緊張したよ!」。
そしてウィルは「『ひつじのショーン』のようなスラップスティック作品はとにかくタイミングが重要なんだ。僕自身も短編を手掛けてきたことでそのタイミングを磨いてきたけれど、やはりその背後にはニックとピーターが持っているコメディセンスから受けた大きなインスピレーションがあったと自覚している。だから今回の作品は、僕たち監督だけじゃなく、いろんなアーティストや多くのスタッフが提案してくれたギャグやアイデアの中でもベストなものばかりを取り入れているんだ」と、本作がSF映画であると同時にコメディ映画でもある、まさにアードマンの総力が結集した作品に仕上がっていることをアピールした。
取材・文/久保田 和馬