『Fukushima 50』はどのように作られた?現場を鼓舞した佐藤浩市と渡辺謙のリーダーシップ【後編】|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『Fukushima 50』はどのように作られた?現場を鼓舞した佐藤浩市と渡辺謙のリーダーシップ【後編】

コラム

『Fukushima 50』はどのように作られた?現場を鼓舞した佐藤浩市と渡辺謙のリーダーシップ【後編】

日本アカデミー賞優秀監督賞を2度受賞している巨匠・若松節朗監督が、福島第一原発事故の関係者90人以上への取材をもとに綴られた門田隆将のノンフィクション作品「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」を日本映画最大級のスケールで映画化した『Fukushima 50』(3月6日公開)。事故当時の原発の様子を忠実に描くために、細部にまでこだわり抜かれた中央制御室(中操)での撮影秘話を紹介した前編に続き、後編ではもうひとつの“最前線”である緊急時対策室(緊対)の様子や、巨大なオープンセットでのエピソードなどを紹介していく。

【写真を見る】佐藤浩市と渡辺謙の役者魂に全員が共鳴!撮影現場の熱量がピークに達する
【写真を見る】佐藤浩市と渡辺謙の役者魂に全員が共鳴!撮影現場の熱量がピークに達する[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

中操のセットと同様、緊対のセットも東京・調布市にある角川大映スタジオ内に建てられた。テーブルの位置や壁の色まで実物の緊対と同じように作られており、前面の壁に取り付けられたいくつものテレビモニターには、津波のニュース映像などが刻々と流れている。停電によって薄暗い状態が続いていた中操とはまったく異なる雰囲気の緊対での撮影には、メインキャストの他に120人ものエキストラが参加していた。

この緊対の中心となるのは、渡辺謙演じる福島第一原発所長の吉田昌郎。渡辺はセットに入るなり「いまでも帰宅困難の人がたくさんいます。その人たちの気持ちを受け止めて、事実をしっかり描きましょう」と大きな声で挨拶をし、セットにいるすべてのスタッフ・キャストの中にこの映画を作ることの“使命感”が浸透していったという。若松監督はそんな渡辺について「現場で多数のエキストラの人たちを統率するリーダーシップを発揮してくれました。ほとんど寝ないで役に挑んでくれたと思います」と、本物の吉田所長さながら現場を引っ張っていたようだ。

見学に訪れた原発職員たちから「吉田所長本人かと思った」と驚きの声が上がるほどの再現度
見学に訪れた原発職員たちから「吉田所長本人かと思った」と驚きの声が上がるほどの再現度[c]2020『Fukushima 50』製作委員会
中央制御室と同様、角川大映スタジオ内に建てられた緊急対策室(緊対)のセット
中央制御室と同様、角川大映スタジオ内に建てられた緊急対策室(緊対)のセット[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

緊対でのシーンの撮影は、前面のモニターに現時点の緊対の様子が映しだされていることもあり、まずモニター用の映像を撮影してから実際のシーンのための本番を行うという、複雑な過程であった。しかも“時刻”が重要となるため、本番のたびに壁の時計の針が直されという徹底した再現ぶり。セットの中心部には福島第一原発全体のジオラマが置かれ、それを囲むようなテーブルに渡辺らが座り、刻一刻と変わる状況に対応しながら苦渋の決断を繰り返していく。本店からのあまりに無謀な指令に対し、声を荒げる渡辺謙の熱演は迫力満点といえよう。

佐野史郎が演じる内閣総理大臣が緊対にやってくるというシーンがある。総理に対して状況を説明する吉田所長の長いセリフには「電動弁」や「炉心を冷却」など、複雑な用語も多数入っているとあって、渡辺は本番前の時間に何度も練習を繰り返していたという。そんな渡辺の吉田役に、ひときわ感動していたのが現場を見学に訪れた事故発生当時の原発職員たちだった。「背中の曲がり方や首の動きが吉田所長にそっくり。後ろ姿は本人かと思うほどで、のりうつったかのようだ」と賛辞を送った。

緊対では、モニターに映る映像をあらかじめ撮影してから本番に入ったのだとか
緊対では、モニターに映る映像をあらかじめ撮影してから本番に入ったのだとか[c]2020『Fukushima 50』製作委員会
セットの中心部には福島第一原発全体のジオラマが設置されていた
セットの中心部には福島第一原発全体のジオラマが設置されていた[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

そしてこの緊対に、佐藤浩市演じる伊崎当直長をはじめとした中操のメンバーが加わる後半シーンは、本作が描く“5日間”の終盤となる。役柄と同じようにヒゲを剃らず、疲れきった顔のキャストたちが、自分たちの任務をまっとうする決死の演技に、撮影現場の熱量はピークに達することに。中操での佐藤、緊対での渡辺。現場を牽引する2人の役者魂に、スタッフ・キャスト全員が共鳴したようで、若松監督は「画面の端々から彼らの強烈な精神力が伝わってきた。エキストラも含め、全員が集中し、自分が主人公として演じている感覚で、信じがたいエネルギーと切れ味が生まれた。作品の設定が芝居に影響するという、私にとっても初めて経験する貴重な現場になりました」と語っている。

こちらで指揮を執るのは渡辺謙が演じる吉田昌郎所長
こちらで指揮を執るのは渡辺謙が演じる吉田昌郎所長[c]2020『Fukushima 50』製作委員会
後編ではもうひとつの“最前線”である緊急対策室の舞台裏を紹介!
後編ではもうひとつの“最前線”である緊急対策室の舞台裏を紹介![c]2020『Fukushima 50』製作委員会

そんな若松監督は本作の撮影を振り返り、最も難関だったことは初日に行われたオープンセットでの撮影だったと明かす。津波によって破壊された福島第一原子力発電所の屋外を再現するために、長野県にある諏訪湖のほとりに巨大なオープンセットが建設されたのだ。「建屋の外部が津波被害で戦場のようになあり、瓦礫が散乱する中で電源回復や注水作業に奔走する作業員がいて、想定外の水素爆発に巻き込まれ逃げ惑うシーンなど、壮絶を極める撮影でした」。

そして「現実に起こった大事故の惨状を再現するだけでも大変なことですが、クランクインのシーンなので俳優たちにこの現場を見せることで、“大変な映画を作る”のだという覚悟を抱いてほしかったのです。撮影自体は数時間のものでしたが、佐藤浩市さんら役者の方々はもちろん、スタッフもあの現場に最初に立つことで、頭の中でイメージしたものと現実に起こった時ことを結びつけられたのではないでしょうか」と語った。

若松監督は惨状を再現したセットを見せることで、スタッフ・キャストに覚悟を抱いてほしかったと明かす
若松監督は惨状を再現したセットを見せることで、スタッフ・キャストに覚悟を抱いてほしかったと明かす[c]2020『Fukushima 50』製作委員会
日本映画初となる米軍の協力により、在日アメリカ軍横田基地でも撮影を敢行
日本映画初となる米軍の協力により、在日アメリカ軍横田基地でも撮影を敢行[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

また本作では、内閣総理大臣が福島第一原子力発電所を訪れるシーンの撮影のために陸上自衛隊の協力のもと要人輸送ヘリ“スーパーピューマ”が登場したり、“トモダチ作戦”のシーンを在日アメリカ軍横田基地で撮影するなど、原発の描写以外も徹底してリアリティにこだわっている。特に横田基地での撮影実現に至るまでは困難を極めたとのことだが、細部に至るまで真実を正しく伝えたいというスタッフの気持ちが届き、日本映画史上初めてアメリカ軍の協力を得ることが実現。基地内で勤務する兵士たちもエキストラとして参加することとなった。

『Fukushima 50』は3月6日(金)より公開!
『Fukushima 50』は3月6日(金)より公開![c]2020『Fukushima 50』製作委員会

あの東日本大震災から、まもなく10年目を迎えようとしているいま、ついに描かれる福島第一原発事故の真実。是非とも劇場でその圧倒的なスケールを味わいながら、描きだされる珠玉のドラマに心を震わせ、そして犠牲を厭わずに最前線で戦い続けた人々に想いを馳せてみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬



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