「原発是非論の映画を作る気はなかった」【『Fukushima 50』若松節朗 ×「いちえふ」竜田一人 対談】
「キャスティングはすごく難航しました」(若松監督)
――原発で働いている方たちは、ほとんどが地元の方々だとお聞きしましたが。
竜田「そうですね、事故当時から原発の作業員はほとんど地元のおっちゃんたちです」
若松「漫画のなかで使われている方言がいいですね。映画では火野正平さんや平田満さんが福島弁を使っていますが、ほかの役者から『俺にも使われてくれ』と言われました。でも、皆が方言を使いだしちゃうと、狙いと違うテイストの映画になってしまうので、全体的なバランスには気を遣いました。だから若者は標準語で、老人やベテランの作業員だけが福島弁で話すことにしたんです」
竜田「確かに、福島でも子どもたちはそんなに訛っているわけじゃないです。火野さん、とても良かったです!」
若松「頭に水をかけるシーンで水がざーっと流れるじゃないですか。髪がある人だとああはいかないですね(笑)。火野さんの頭から熱さを感じてほしいと思いました」
竜田「泉谷しげるさんが、(佐藤演じる伊崎に)『頑張ってくれたじゃないか』と声をかけてくれるシーンにはぐっと来ました。私は事故のあとにしか原発で働いてないですが、ああ言ってねぎらってもらえるとジーンときますね」
――佐藤浩市さんや渡辺謙さんは言うまでもなく、ほかのキャストも要所要所で見せ場がありましたね。
若松「キャスティングはすごく難航しました。例えば安田成美さんの浅野役もなかなか決まらなかったのですが、安田さんは以前に1回仕事をしたことがあったので、『やっていただけないですか?』とお願いしたら、『私たちの仕事は伝えることです』と言ってくださいました。原発で働いているのはほぼ男たちだったから、彼女の存在はすごく大きかったです」。
――原作にない、浅野さんがトイレを掃除するシーンは監督がこだわって入れたそうですね。
若松「はい、僕が安田さんのモデルになった方に直接話を聞いた時、『一番大変だったのはトイレでした』と言われまして。水が出ないので、どうしようもなかったそうです。水がないから簡易トイレしかないし、彼女はそれを片付ける役割をしていたんです」
――災害用トイレについては、「いちえふ」でも描かれていましたね。
竜田「私が行ったころは、免震棟は水が出るようになっていましたが、それ以外の場所では災害用トイレを使っていました。ビニール袋をセットして、使ったあとは粉を入れてから袋をしばって捨てるんです」
若松「日々家事をされている方には、きっとリアリティを感じてもらえると思います。それにあのシーンがなければ、佐藤さんと渡辺さんのトイレでの会話シーンはできなかったので。浅野さんが掃除したあとでなければ、あんなに臭いところでは話せませんからね(笑)」