色気をまとい、危険な役が似合う男・北村一輝。その原動力は「満足しないこと」
怪しいほどに妖艶。北村一輝には、“危険な役”がよく似合う。そんな彼が、最新作『KILLERS キラーズ』(2月1日公開)では、サディスティックな残忍さと独自の美意識を貫くサイコキラーを演じるというから、注目だ。強烈なインパクトと色気を発し、見事に殺人者に命を宿らせた彼。その役者魂と、原動力に迫った。
本作は、日本とインドネシアの初の合作映画。北村は、セクシーな魅力で女性を惹き付けては、理由もなく女性たちへの殺人を繰り返す男・野村役に扮している。「脚本を読んだ時に、まったく役柄に共感ができず、救いようがない役だと思った」と素直に話す彼。「本当は、こういうことも言わない方が良いんでしょうね。僕は嘘がつけず、ダメなものはダメ、嫌いなものは嫌いと言ってしまうんです」と、くしゃっとした笑顔を見せた。
インドネシアのモー・ブラザーズ監督が手掛けた本作。北村は「限られた国ではなく、監督の広い世界に目を向けた姿勢に共感した」と、力強くコメント。さらに、「自分が、理解して感情移入できるものだけを演じることが俳優ではないと思っています」と熱がこもる。
では、オファーを受ける決め手となるものは何だろう?すると、「タイミングやスケジュールもあるけれど、基本的には(オファーが)来た順番でやりたい」と意外な一言。「『面白そうだから出ます』と決めるのではなく、面白いと思わないものでも、面白くするのが僕らの仕事だから。それに、自分が決めたものだけに出ていたら、偏ってしまう。デビューしたての頃は、どんな仕事でも、いただいたらやるじゃないですか。いつから自分が選ぶような、偉い立場になるのかなって(笑)。今でも僕は、来た順番にやりたいと思っていますよ」。
「もの作りの過程が好きです」と、プロとしての誇りがみなぎる。「撮影の現場では、もめたり、大変なこともある。でも、そこからとんでもないアイディアが生まれたりもする。全て自分のやりたいことだけで、恵まれた環境にあったら、考えることをしなくなっちゃうんじゃないかな。結果、大変なことがあった現場ほど、良いものができたりすることは多い」。
常に、“満足しないこと”こそ、北村の原動力となっているようだ。「満たされたと感じてしまうと、あまり良いことはないと思う。自分を最善の場所に置いておくよりも、ちょっと物足りない状況の方が、もっと欲して、いろいろやろうとするでしょう?たくさん欲して、たくさん間違いをしても良いと思っている。これまでだって、たくさん間違いをしてきたからね(笑)。そんな自分を否定したくない。これは俳優としてもそうだけれど、その前に人間としての楽しみでもあります」。
今回の現場でも、モー・ブラザーズ監督とディスカッションを重ねた。「また是非、彼らと仕事をしたいし、もし次、呼んでくれなかったら、邪魔しに行こうかな」とジョークを交えながら、監督への信頼感を吐露。そのなかで生まれた野村という狂気の主人公は、ゾクゾクするほどに恐ろしく美しい。彼が色気を放つたびに、恐ろしさが増していく。
色気を出すコツについて聞いてみると、「色気あったかな?色気って出そうと思って出せるものなのか、わからないんだよね」と、照れ笑い。「ただ、野村という男は、ガサツではないと思ったんです。物を取るときや、女性の肩に手を置く時のしぐさ、ちょっとした動作まで細かく考えました。あとは、照明や衣装、カメラのアングルや監督の編集のおかげ。色気があると見えたら、それはスタッフの皆さんのおかげです」。
これまでも、狂気をはらんだ、数々の“危険な役”に挑んできた北村。常軌を逸した役柄は、演じがいのあるものだろうか。「僕は小さい頃から、想像をめぐらせることが好きで。僕にとって、普通だとあり得ない、想像もしないような役柄に出会い演じられるのは、刺激的で面白いことではありますね」。その旺盛な想像力こそ、どんな役でも演じきる秘訣だったようだ。
「今、目の前にあることを必死にやる。今日を生きることで明日も変わっていく」と彼。驚くほどの目力でぐっと人を惹きつけたと思えば、一方、ジョークを話しながらくしゃっと笑ってみせる。その変化が、人々を魅了してやまない。まずは、『KILLERS キラーズ』で北村一輝の魅力を堪能してほしい。【取材・文/成田おり枝】