「オーディション番組」の裏側は…『ティーン・スピリット』に込められた“静謐”と“高揚”
もっとも、『フラッシュダンス』(83)や『コーラスライン』(85)など、オーディションを題材にした青春映画では常に、オーディションというポイントを物語の要所に据えながら、その前後に起こりうるドラマをメインストリームとして描く流れが存在している。
それを汲んだ物語のなかで、才能を見出されて成長していくヒロイン像を見れば、幾度となくリメイクが重ねられた往年の名作『スタア誕生』(音楽業界を描くという点では1976年版の『スター誕生』がふさわしいか)を想起せずにはいられない。それだけに、本作がお披露目された2018年のトロント国際映画祭で、同じ俳優出身監督のデビュー長編という共通項を持ちながら、本家本元のリメイクである『アリー/スター誕生』がお披露目されたのは奇縁だったと言わざるを得ない。
もちろん、グラミー賞歌手のレディー・ガガと比較するのは憚られるとはいえ、それでもエルの歌唱シーンは目を見張るものがある。エル自身、自ら強く望んで本作の役を手に入れただけでなく、3か月にわたって厳しいトレーニングを重ねたとのことで、劇中の歌唱シーンではすべて生歌を披露。ステージ上に立つだけで画面映えする圧倒的なスターパワーと、歌唱シーン以外でも光る抜群の演技力を加味すれば、彼女のポテンシャルの高さを改めて感じることになるだろう。
また本作で自ら脚本を執筆し、長編監督デビューを飾ったマックス・ミンゲラ監督の、父親譲りの才能も見逃せないポイントのひとつだ。デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(10)で主人公と対立するグループの1人を演じていたミンゲラの父は、『イングリッシュ・ペイシェント』(96)でアカデミー賞を受賞し、2008年に54歳の若さでこの世を去った名匠アンソニー・ミンゲラ。本作の舞台となるワイト島は父アンソニーの出身地なのである。
ミンゲラの代表的な出演作に、『ゴーストワールド』(01)のテリー・ツワイゴフ監督がメガホンをとった『アートスクール・コンフィデンシャル』(06)という映画がある。ニューヨークの芸術学校を舞台に夢を追いかける若者たちが巻き込まれていく騒動を描いたブラックコメディなのだが、そこでも描かれる“青春”と“成功”が背中合わせになるほろ苦さは、しっかりと本作にも反映されていると見える。そこに人間ドラマの名手だったアンソニーから確かに受け継がれたDNAが加わることで、少しだけビターなテイストの青春映画が誕生したというわけだ。2010年代の文化や潮流を象徴した青春映画として、語り継がれる一本になるのではないだろうか。
文/久保田 和馬