渡辺大知と奈緒、玉田真也監督が考える『僕の好きな女の子』における恋愛の正解と不正解
「又吉さんのエッセイは、言葉の力がすごく強いです」(玉田監督)
――加藤が、自分の書いた脚本の良さをプロデューサーがわかってくれないと、愚痴をこぼした時、美帆が珍しく核心を突くようなアドバイスをするシーンが印象的でした。
渡辺「美帆は、いつも大喜利のような言葉を加藤にふっかけ、互いにツッコミ合いながらきゃっきゃと楽しんでいます。でも、あのシーンでは美帆がいままでとは違う球を投げ、加藤を辛辣に試したような感じがしました。あそこで、加藤の返答次第では、もしかしたら恋愛に持っていけたのかもしれなかった」
玉田「普段は他愛ない話をしているけど、あそこでは、日常会話よりも1つ上のレベルのものを出します。つまり、加藤と美帆だからこそ、そういう会話もできるので、やはり貴重な関係性の2人だと思いました」
――劇中で、演じていて特にせつないと思ったシーンについて教えてください。
渡辺「いっぱいありすぎますが、凧揚げのシーンですね。2人で凧を揚げている最中に、美帆からいきなり『彼氏ができた』と言われてしまう。それって、いま言うことじゃないだろうと思いました(苦笑)」
玉田「あれは原作にもあるんですが、脚本作りの話し合いにおいても、どうなんだろう?と話題になったんです。ただ、そういう斜め上をいく感じが美帆らしいとなって、そのまま入れることにしました。美帆は常に、小さいサプライズを仕掛けてくる人で、加藤はそこも含めて彼女のことが好きなのかなと」
――「思い通りにならない君だけど、君と言う存在が、僕の期待を裏切ったことは一度もない。」というフレーズが、チラシのコピーにもありますね。
渡辺「僕も、いいコピーだと思いました」
玉田「又吉さんのエッセイは、言葉の力がすごく強いので、ちょっとした一文から、フィクションがぱーっと広がるんです。その言葉を手がかりに脚本化していきましたが、その作業はすごくおもしろかったです」
――奈緒さんは、どのシーンがせつないと思いましたか?
奈緒「私は、仲野太賀さん演じる新しい彼氏の城戸さんと加藤さんと3人で井の頭公園を歩いて話すシーンがせつなかったです。美帆は、3人の関係を成立させたいと思って、いつもと同じような会話に持っていこうとするのに、上手く話せない。あそこで加藤との世界が崩れ始めた気がしました」
――あのシーンは、美帆の心の揺れをリアルに感じました。
奈緒「玉田監督の視点はすごく客観的で、加藤に寄り添いすぎてない感じもいいなと思いました」
玉田「ベースとして、加藤という人間像だけを追うのではなく、ポイントごとにいろいろな人に共感できるようにと、いろんな視点を入れていきました」
――確かにそういうバランス感覚がとてもいいです。さらにラストシーンにかけて、新鮮な感動を覚えました。
玉田「原作も似たような展開がありますが、それを映像化するにあたり、どうすればいいのかなと考えて、あの形にしました。観る人によって、捉え方が違うと思いますが、敢えてこうだとはっきり言わずに、観た方に委ねるというものにしました。ぜひ映画を楽しみに観てほしいです」
取材・文/山崎伸子