『ふりふら』三木孝浩監督とティーンムービー。俳優の“揺らぎ”を捉え続けた10年を語る【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】
日本映画の現場で日々試行錯誤しながら、悪戦苦闘しながら、あるいは(もしそんな監督がいたらですが)唯我独尊悠々自適に、映画を撮り続けている監督たちにインタビューをしていく新連載です。「映画のことは監督に訊け」ーーなにを当たり前のことを言ってるのか?と思う人もいるかもしれませんが、特に作品が完成した後の日本映画のプロモーションにおいては、ごく一部のスター監督や有名監督を除いて、監督の存在感は年々薄くなっていくばかりです。それは、例えば予告編での名前の提示のされ方や、宣伝ポスターでのクレジットの位置や大きさにも、顕著に表れています。
企画が優先される、キャスティングが優先される、製作委員会やスポンサーの都合が優先される作品で、仕事を淡々とこなしているだけの監督ばかりだったら、それも仕方がないのかもしれません。しかし、日本映画界だけでなく世界の映画界全体が激変の時期に入った現在、「映画は監督のもの」という基本中の基本に立ち返って、日本映画の制作現場でその中心にいる監督たちがなにを考えながら仕事をしているのかに焦点を当て、じっくりと話を訊くことで見えてくるものは大きいのではないでしょうか。「撮影中になにか印象に残る面白いエピソードはありましたか?」みたいなインタビューばかりに触れてきて、監督のインタビューに興味を失っている人にこそ読んでもらいたい。そんな思いのもと、新連載「映画のことは監督に訊け」を始めます。
初回に登場してくれたのは、『思い、思われ、ふり、ふられ』が公開中の三木孝浩監督。同作は、明るく社交的な朱里(浜辺)、朱里の義理の弟であり葛藤を抱えるクールな理央(北村匠海)、内向的でうつむきがちな由奈(福本)、さわやかで天然な和臣(赤楚衛二)、同じ高校に通う4人がそれぞれに悩み、恋心を交わし“思い、思われ、ふり、ふられる”様を描いた青春映画となっている。
宇野維正(以下宇野)「最初に三木監督に確認しておきたいのは、今回の『思い、思われ、ふり、ふられ』(以下、『ふりふら』)をはじめとして、自分はこれまで三木監督が撮ってきた作品の多くを“ティーンムービー”というジャンル名を用いて書いたり語ったりしてきたのですが、その呼称で問題ないですよね?」
三木孝浩監督(以下三木)「全然問題ないです。僕のフィルモグラフィにおいては、やっぱりティーンムービーがメインだと思うので」
宇野「ティーンムービーの旗手である三木監督がそう言ってくれるのであれば、これからも安心して使えます(笑)」
三木「いろいろな呼び方をされますが、こういう呼び方をしないでほしいみたいな気持ちはまったくないですね」
宇野「今年は『ふりふら』の後にも、『きみの瞳(め)が問いかけている』の公開が控えてますが、三木監督は商業映画監督デビューからちょうど10年になります」
三木「そうですね。デビュー作の『ソラニン』が2010年公開だったので」
宇野「35歳で長編監督としてデビューして、現在45歳。この10年間、これだけ継続的にメジャー作品をたくさん撮り続け、コンスタントに作品をヒットさせてきた。日本映画の2010年代というくくりで見ると、実はかなり比類のないキャリアを歩んできたわけですが、ご自身としては、この10年を振り返ってみてどのような想いがありますか?」
三木「やっぱり1本目、2本目の印象が大事だったと思うんですよね。僕の場合は『ソラニン』と『僕等がいた』がきっかけとなって、そこでできた縁や、プロデューサーとの出会いからここまで続けてこられたという実感があります。作品の内容的にも、その2本をちゃんとかたちにできたことは大きかったと思います」
宇野「過去の監督のインタビューにいくつか目を通したのですが、そこで必ずと言っていいほど訊かれていたのは、『オリジナルはやらないんですか?』ということで」
三木「よく訊かれますね(笑)」
宇野「監督作が何作か成功して、そこで自分の名前も前面に出てくるようになると、オリジナルの実現を目指す方も多いじゃないですか。でも、三木監督はそうしてこなかった。インタビューでは『0を1にするよりも、1を10にするのが好きだ』ということもよく言っていて。結果論かもしれませんが、そのスタンスを頑なに守り続けてきたことが、ここまでのキャリアの充実につながったのかもしれませんね」
三木「映画の世界に入る前、ミュージックビデオを作っている時から自分はその感覚がとても強いんですよ。ミュージックビデオって、基本的にアーティストありき、楽曲ありきじゃないですか。それをいかに魅力的にユーザーのもとに届けるかという。だから、自分の志向がもうそういうふうになっているというか、ずっとそういう感覚で作品を作ってきたので。映画も、もちろんミュージックビデオと比べたら尺は違いますけど、どこかで同じ感覚が続いているんですね。素材としての企画をいただいた時に、『これをどう料理しよう?』というところに面白味を感じる。自分がその素材を作りたいみたいなことは、発想としてはほとんどないんです」
宇野「ミュージックビデオ出身の監督というと、その頂点にいるのはデヴィッド・フィンチャーだと自分は考えているのですが、実はフィンチャーの作品もほとんどが原作もので、彼が企画から立ち上げた作品はあまりないんですよね。ただ、きっと『この原作を映画化したい』という働きかけは自分からもしているはずで。三木監督も、自分から『この原作をやりたい』と持ちかけたりすることはないんですか?」
三木「そういうことを知り合いのプロデューサーに提案することはあります。でも、なかなかメジャー作品ではやりづらい企画が多くて、実現には至っていないことが多いですね」
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