『ふりふら』三木孝浩監督とティーンムービー。俳優の“揺らぎ”を捉え続けた10年を語る【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】
宇野「今作もそうですけど、前作の『フォルトゥナの瞳』から三木監督が共同脚本としてクレジットされるようになりましたよね。映画って“原作もの”と“オリジナル作品”で分けて考えられがちですけど、監督のストーリーへのコミットの度合いというのはその間にいくつものグラデーションがあって、そこの部分で変化があったじゃないかと睨んでいるんですけど」
三木「ストーリーテリングに関しては、まだまだ自分の力不足の部分もありますが、脚本にはどんどんコミットしていきたいし、していくべきだなという意識があります。自分が企画段階で想定していた、『どこの感情を膨らませるか』みたいな感情の見せどころを、脚本の段階から入れておきたくて。現場でそうしておけばよかったと思うことを何度か経験して、作品を重ねることでそのポイントが見えてきたというか。脚本から、そのシーンを覆う感情がかなり細かくわかってくるようになって、『だったら、あらかじめここはこういうセリフを足しておこう』と。これまでも、最終的にはクレジットされていない作品でも、多少自分で手を入れて、監督稿のようなものを最終決定稿にさせていただいていました」
宇野「ということは、共同クレジットされているものも、脚本家によるベースとなる脚本があって、そこに監督が手を加えたものということですか?」
三木「そうです。クレジットに関しては、そこで手を入れさせていただく分量が多くなってきて、プロデューサーから『それだったら共同クレジットにしましょう』と打診されたのがきっかけです」
宇野「なるほど。演出する上での見せ場をより明確にするためだったんですね。『ふりふら』のメインキャラクターたちに驚かされるのは、みんなとにかく人に優しいことで。4人とも常に空気を読み合っている。同じティーンのドラマを作るとしても、アメリカだったら『奪い、奪われ』みたいなことになるわけですが(笑)」
三木「(笑)」
宇野「まあ、そもそも高校生が車に乗ってる国とは全然違うわけですけども。ただ、やっぱり登場人物全員が利他的であるということが、非常に興味深かったんですね。利己的な親の世代と、利他的な子どもたちの世代という対比も強調されている」
三木「それがいまの時代のリアルだと思うし、最初に原作を読んだ時も、その感覚がとても面白いと思ったんです。原作の咲坂伊緒さんは、『普通そういうところを漫画にする?』という部分をすくいあげていく作家さんなんですよ。その空気を読む感じだとか、優しすぎるがゆえにすれ違う感じだとか、そういうリアリティは原作が持っているもので。そこに正面からトライしない限りは、『ふりふら』の映像化にはならないなと思ったので、そこから逃げずに、物語を転がしたいなと思うところをグッと堪えてキャラクターの心情に寄り添うというのが、今作での一番チャレンジングな部分でした。言ってみれば、本当に『思い、思われ、ふり、ふられ』ることしかやっていない。それだけで2時間見せきることができるのか、撮影が終わった後もまだ不安でした。編集して、完成版を観るまで、ずっと悩んでましたね」
宇野「いや、まさにその部分が完璧に達成されていることが、最大の驚きで。なんというか、このストーリーって、俳句とか、水墨画とか、そういう淡いものだけでできている世界じゃないですか。そこと三木監督自身の作家性がすごく相性がよかったから、こんなに完成度の高い作品になったんだろうなって」
三木「僕としては、やっぱりもっと拠りどころのある作品の方が安心は安心なんですけどね(笑)。例えば、音楽ものでライブシーンだったり演奏シーンがあったりすると、わかりやすくそこを山場にできるじゃないですか。そういう、演出的にすがるものがない企画だったので、そう言っていただけるのは本当にうれしいです」
宇野「咲坂さんの原作の映画化は『アオハライド』に続いて2作目となりますが、『アオハライド』も象徴的なシーンで始まりますよね。ヒロインを演じる本田翼さんは、そりゃあ、言うまでもなくめちゃくちゃ可愛いわけですが、高校生活を平穏に送るために、その可愛さによって学校で目立つことを自分から抑制していく。まさに空気を読むところから始まりますよね」
三木「咲坂さんの作品は、人への目線と、人からの目線というのが大きなテーマなんですよね。だから、キャラクターの造形もストーリーテリングのために存在するんじゃなくて、その心情を丁寧に紡いでいって、それがうねりになっていくところに注力されている。『アオハライド』にはまだ、『あ、こういう青春っていいよな』と思える、憧れの対象となるキャラクターがいました。でも、今回、咲坂さんと作品に入る前にちょっと話したんですが『「ふりふら」はそうなれない人たちの物語だ』とおっしゃっていて。『そういうのっていいな』と思っていてもできないとか、言いたくても言えないとか、そういう思いを抱えている、普通だったらこぼれ落ちそうな人をすくいあげたいという話をされていて。コミックの読者も、映画の観客も、実は大多数がそういう人たちなんじゃないかと。『自分が主人公だ』というふうには思えない人たちがメインになった時に、どういう物語が作れるのか?というところで自分も勝負したいという気持ちがありました」
宇野「そういう、原作者の方とのコミュニケーションは大事にされている?」
三木「はい。最初の観客は原作者だと思っているので。企画がスタートする段階でまずご挨拶して、じっくりとお話をさせていただいて、原作者が物語の核としている部分はどこなのかをつかまないと、なかなか作品づくりに入れないですね」
宇野「監督として自分なりに原作を解釈するという方法もあると思うんですが、原作者に話を直接訊くことを重要視されているんですね」
三木「そうです。映像表現だと表現の仕方が変わってくるので。例えば漫画に出てくるエピソードを出来事だけなぞっても、原作を映像化することにはならないと思っていて。この作品で作家さんが一番大事にしているポイントはなんだろう?というリサーチは必ずします。もちろん、僕の『こうなんじゃないか』という意見もぶつけますけど、そこのすり合わせをして、ずれないようにしたいなと思っていますね」
宇野「そのやり方だと、もう亡くなってる作家の作品を映画化するのは大変ですね」
三木「『夏への扉』もそうなりますね。そこは想像でいくしかないですけど、果たして原作者は喜んでくれるか?というのは常に意識しています。『映画オリジナルで、原作とは全然違うものにしたい』という気持ちがあまりないというか」
宇野「じゃあ、作品が完成した後に感想を直接聞かれる?」
三木「はい、一番気にしているのは、原作者の感想かもしれないです。おかげさまで(笑)、作った後も原作者の方々と良好な関係は続いています」
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