『ふりふら』三木孝浩監督とティーンムービー。俳優の“揺らぎ”を捉え続けた10年を語る【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】
宇野「やっぱり、メジャーのフィールドで作品を作り続けたいという気持ちは強い?」
三木「それは大いにあります。より多くの人を喜ばせて、楽しませたいというのが、映画を作る動機として一番大きいです。それは自分にとってすごく自然な欲求なのであまり言葉にすることはないですけど、やっぱりメジャーでやることにはこだわっているのかもしれない」
宇野「それをはっきりと言える監督は、特に日本では珍しいですよね」
三木「そういうものなんですかね」
宇野「ティーンムービーを撮ってきた監督でも、受け仕事としてそういう作品をメジャーで撮って、一方で自身の企画を独立系の配給作品で撮ってたりするケースもあるじゃないですか。で、そういう監督のほうが映画ファンのウケが良かったりもする。だけど、三木監督のキャリアにはそういうエクスキューズがないですよね」
三木「僕の場合はプライドがないんだと思います。あまり『映画ファンに好かれたい』みたいな気持ちは…あ、そういう言い方をするとちょっと語弊があるな(笑)。でも、観客の対象をあまり映画ファンだけには絞りたくないという気持ちはありますね」
宇野「映画ファンから見くびられてるな、と思うことはありますか?」
三木「それはまあ、なくはないですね(笑)」
宇野「でも、『別に知ったことか』という感じ?」
三木「いやいや(笑)、全然喧嘩を売るようなつもりはまったくないです。映画ファンにも是非観てもらいたいといつも思ってます」
宇野「ただ、これだけたくさんヒットした映画を世に送り出しても、自身のアカウントのTwitterでのプロフィールではいまだに“MUSIC VIDEO DIRECTOR MOVIE DIRECTOR”と“MUSIC VIDEO DIRECTOR”を先にしている。これは意図的なものですよね?」
三木「はい、意図的なものです。結果的にこうして映画の仕事を続けさせていただいてますけれど、それこそミュージックビデオだけでなく、ドラマだってCMだってやりたいですし、映像で多くの人を楽しませること、喜ばせることをジャンルレスでやりたいなと思っているので」
宇野「あと、近年になって芸能プロダクションに所属する映画監督が増えてきている印象があるんですけど、三木監督はその先駆けとも言えますよね(スターダストプロモーションの映像部門であるSTARDUST DIRECTORSに所属)」
三木「スターダストの会長さんが本当に映画が好きで。自分は映画を撮る前から、スターダスト所属のYUIなどのミュージックビデオを作っていたんですが、そのころから気に入ってくださって。それで『ずっと映画をやりたいと思ってるんです』と話をしたら、じゃあマネージメントしてあげるから、うちにおいでよって声をかけていただいたんです」
宇野「これは読者に誤解されるかもしれないので言っておくと、三木監督は必ずしもスターダスト所属の俳優が出演する作品ばかり撮っているわけではまったくないですよね」
三木「むしろ、バーター的に事務所の俳優をキャスティングすることを嫌がるんですよ。『スターダストの俳優がキャスティングされやすいように、映画監督を事務所に所属させる』みたいな目的ではまったくない。そういう意味でも、すごく自由にやらせてもらっています」
宇野「事務所やそれぞれの監督との関係性もあると思うので一概には言えないとは思いますが、少なくとも三木監督にとっては、芸能プロダクションに所属していることで、そのデメリットはない?」
三木「自分にとってはメリットしかないですね。例えばスターダストの場合、若手の子のレッスンをやったりもしていて。そういう段階から見させてもらって、『この子を起用してみたいな』と思うこともあります。まだ実現はしてないんですけど、例えば永野芽郁ちゃんとかも、デビューするかしないかのころからずっと一緒になにかできないかと思っている一人です」
宇野「今回、浜辺美波さんとお仕事をされたわけですが、登場シーンからテンションが高くて不意を突かれました。『ふりふら』の主要キャラクターのイメージだと、朱里というよりも、むしろ由奈の役の方が浜辺さんの大人しいイメージと合うと思っていたので」
三木「浜辺美波ちゃんのキャスティングはプロデューサーのアイデアでもあったんですが、実は由奈役の福本莉子ちゃんも真逆で、とても明るいタイプなんです。経験上、本人に無理なくフィットするキャラクターではなくて、違うキャラクターを演じてもらうことで、その役に必死になろうとするあがきであったり、役者としての未知な部分にトライをしてもらった方が、いい結果が生まれるんです。わざと枷を与えると、物語でキャラクターが成長していく様子とシンクロしていくというか。特に若い役者さん、まだ自分の見せ方を自分で捉えきれていない役者さんが、『この役になりきろう』と頑張っている姿をドキュメンタリー的に捉えていくと、そこに揺らぎが生まれて、演技がハネることが多いんです」
宇野「なるほど」
三木「そういう意味では、自分はどちらかというと、ベテランの方たちのお芝居を撮るよりも、若い子たちを撮ることが合ってるんだと思います。演技に揺らぎが発生しやすいというか、その揺らぎの部分が自分にとってはリアルだし、映画を撮ってる最中にそれが変化していくのを捉えるのがすごく面白い。女性でも男性でも、若い子が自分の未成熟な部分を埋めようとして頑張る姿って、やっぱり美しいじゃないですか」
宇野「三木作品の撮影現場は、とても穏やかだという話を聞いたことがあります」
三木「なるべくピリピリしないように、現場作りで気をつけています。現場で役者を追い込んで、それが結果よかったという経験があまりないからかもしれないですけど(笑)。なるべくリラックスできる環境を作りたい。若い子たちは、みんな映画の現場に慣れてないから、すでにテンパってるわけです。そこでさらにピリつかせたところで演技がこわばっちゃうし、いいものは出てこないので」
宇野「日本の映画界では、昔から厳しい現場が武勇伝のように語られたりもしてきましたが、いまの時代、もうそれはちょっとしんどいというのもありますよね」
三木「そうですね。現場のパワハラ的な言動に関しては、キャストに対してだけでなく、スタッフに対しても、こちらが意識をして気をつけないといけない時代だと思います。それに、最近のハリウッド映画のメイキングとかを見ていると『めっちゃ楽しそうじゃん、みんな』って思うんですよ。アメリカではみんな楽しそうに映画を作ってるのに、なんで日本映画ではピリつかないといけないんだろうと思って。それに、現場では一番下についてくれる若いアシスタントって、実は現場の環境が最も客観的に見えていて、その子たちがフッといい意見を言ったりしてくれるわけです。そういう、誰でも意見を言いやすいような環境で作ったほうが、結果的に作品にとってもプラスになると思います」
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