『ふりふら』三木孝浩監督とティーンムービー。俳優の“揺らぎ”を捉え続けた10年を語る【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】 - 4ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『ふりふら』三木孝浩監督とティーンムービー。俳優の“揺らぎ”を捉え続けた10年を語る【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

インタビュー

『ふりふら』三木孝浩監督とティーンムービー。俳優の“揺らぎ”を捉え続けた10年を語る【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

宇野「今回の咲坂さん、あと『青空エール』『先生!、、、好きになってもいいですか?』の河原和音さんと、同じ原作者の作品を映画化する機会も多いことから、それはわかります。実は自分が三木作品のヤバさに決定的に気づかされたのは『先生!』のタイミングで。ただ、それ以前の初期作品から一貫していると感心してきたのは、光の捉え方の繊細さで。はっきり言って、その一点において他の“ティーンムービー”とはまったく違う次元にあるというのが、自分が三木作品を高く評価させていただいている最大の理由です」

宇野維正が三木監督作品の光の捉え方を絶賛!『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(17)
宇野維正が三木監督作品の光の捉え方を絶賛!『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(17)[c]河原和音/集英社 [c]2017 映画「先生!」製作委員会

三木「基本は自然光で、物語で特に大事なポイントは“絶対にこういう光で”というプランはいつもあります。もちろん、黒澤明さんの有名なエピソードの『天気待ちで3日間』というような時代でも、そんな立場でもまったくないので、ポイントは絞らざるを得ないんわけですが。むしろ、自分にとって撮影現場というのは、その取捨選択を迫られる場所くらいの感覚で。芝居を支える上で、光の演出というのは絶対に必要だと思っているので。そこは相当こだわってやっています」

宇野「じゃあ、光の加減によって撮影の順番を入れ替えたりとかも?」


三木「それは常にしてます。むしろ、光優先くらいな感じで。ロケハンの時も、撮影する季節に太陽の位置がどこにくるか、そこでどういう光が射すか、撮影する時間帯によって、どちらから光が射すかも、全部シミュレーションしてます。細かすぎて、プロデューサーには嫌がられますけどね(笑)」
宇野「今回の『ふりふら』での、三木監督自身からの『ここは特に注意して見てほしい』というような、演出上のポイントはどこになりますか?」

恋の秘密を隠す、その理由とは?
恋の秘密を隠す、その理由とは?[c] 2020「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 [c] 咲坂伊緒/集英社

三木「どこだろう? 思い浮かぶのは全部、『セリフがオンじゃないところ』ですね。登場キャラクターが自分の想いをオブラートに包んだり、実は本心と逆のことを言ったりしている時、その時々のセリフを発した側じゃなくて、言われた側のリアクションを見てほしいです。『ふりふら』って、『こいつ、いまこう思ったな』とか、『ここは、本当はどう感じたのかな』っていう予想を楽しんでいく話だと思っていて」

宇野「なるほど」

三木「そこが今回一番大事にしたポイントなんです。演出上も、セリフを言う側より、むしろリアクションする側に『ここでこういう感じになるよね』と細かく指示をしました。そういう部分こそが、漫画では表現しきれない、映画の領域だと思っているんです。アップにした時のちょっとした目の動揺みたいな、そういう本当に微細な動きの部分は漫画では表現しづらいと思うので」

宇野「たくさんあると思うんですけど、その例になる特定のシーンを一つ挙げていただけますか?」

三木「雨の中で理央が朱里に突然キスをしてきた翌日、お母さんの前で理央が『昨日はごめん』って言い出す時の朱里の表情のこわばり。そこで瞬時に『あ、そういう意図じゃなかったのね』と解釈してから、仲のいい兄弟を2人で演じるんですが、お母さんの前では表面上くだらない姉弟喧嘩に見えるように、見えないところでお互いにパスを出し合うわけです。ああいうシーンはものすごく撮り甲斐がありますね」

誰でも幸せになる方法はあるのか?ドシャ降りのなか、理央(北村匠海)が朱里(浜辺美波)にキスをするハイライトシーン
誰でも幸せになる方法はあるのか?ドシャ降りのなか、理央(北村匠海)が朱里(浜辺美波)にキスをするハイライトシーン[c] 2020「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 [c] 咲坂伊緒/集英社

宇野「光だとか構図だとか、もちろん細心の注意を払って撮っているのは伝わってくるわけですが、あくまでもその中心にあるのは役者の演技なんですね」

三木「それは、もちろんそうです。キャラクターたちの心情の変化を、どう見やすく表現するかということをいつも考えているので」

宇野「『先生!』を観た時に、三木監督はこのジャンルではもうすべてやりきったなって思ったんです。まあ、時期的にも、そろそろティーンムービーのブームは終わるだろうし、と(苦笑)」

三木「まあ、そういうタイミングでしたね(笑)」

宇野「あそこでやりきったなって思ったし、実際に原稿でもそんなようなことを書いたりもしたんですが、今回『ふりふら』を観て、『わ、また更新した!』と(笑)」

三木「それはよかった(笑)」

宇野「でも、やっぱり今回もまた『やりきったな』と思ってしまったんですけど(笑)」

三木「いや、全然! 全然やりきっていないですよ!」

宇野「確かにこうして話を伺っていると、まだ一緒にやったことがない役者さんの中にやりたい方がいれば、それだけでも大きなモティベーションになりそうですね」

三木「そうです。そういう意味では、学校の先生のやり甲斐に結構近いかもしれないです。卒業生を送り出しても、必ず新入生が入ってくるみたいな。映画の現場で一番面白いのは、これは役者に限らないですけど、人が成長する様子を近くで見ることができることで。それこそ『アオハライド』のばっさー(本田翼)にしても、『先生!』の(広瀬)すずちゃんにしても、そのタイミングでしか撮れないものというのがあった。社会人になって以降の物語だったら、わりと役者がどのタイミングでも撮れるじゃないですか。でも、ティーンムービーはそうじゃない。それが自分がティーンムービーを撮り続けている大きな理由かもしれませんね。それと、そこには大林(宣彦)イズムの継承という思いもあって」

福本莉子は、本作で初めてヒロインという大役に挑戦した
福本莉子は、本作で初めてヒロインという大役に挑戦した[c] 2020「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 [c] 咲坂伊緒/集英社

宇野「過去にもいろんなところで語られてますが、やっぱり、大林監督は三木監督にとって特別な存在なんですね」

三木「はい。さっき言った、『若い役者に枷を与える』というのも、大林作品から学んだことは大きくて。『時をかける少女』で原田知世さんにわざと古風な言い回しをさせて、そこをなんとかやり遂げようともがいているさまに美しさを見出しているという話をインタビューで読んだことがあるんですけど、自分もそれに近いものを現場で感じることはあります」

宇野「大林監督以外で、思い入れのある監督というと?」

三木「ラッセ・ハルストレムですかね。『ギルバート・グレイプ』や『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』が大好きで」

宇野「映画監督からハルストレムの名前が出るのは珍しいかもしれません。ハルストレムも三木監督同様に職人系の監督と思われているし、原作ものばかり映画化しているし、それで映画好きから見くびられているようなところがある気がします。ただ、よくオリジナル作品が少ないのが日本映画の問題点として語られますが、それってハリウッドもまったく同じ状況なんですよね」

ラッセ・ハルストレム監督、近作の『くるみ割り人形と秘密の王国』(18)プレミアにて
ラッセ・ハルストレム監督、近作の『くるみ割り人形と秘密の王国』(18)プレミアにて写真:SPLASH/アフロ

三木「これは自分のやってることと矛盾してるかもしれませんが、やっぱりオリジナルで、企画の面白さでお客さんを呼べるような作品を作っていかないと、日本映画界全体がシュリンクしていくんじゃないかという危惧はあります。NetflixだったりAmazon Prime Videoだったり、配信系だと視聴のハードルが低いからオリジナル作品がやりやすいみたいなことはあるかもしれませんが」

宇野「メジャー配給の映画作品にこだわらなければ、三木監督なら作れると思いますけどね。でも、そこはこだわりたいところなんですよね?」


三木「今後については、いろんなやり方が増えてきているとは感じてます。韓国映画がすごく進化したのだって、国からの補助も大きいですけど、国内市場だけでは立ち行かないから、外に広げていこうという流れがあったわけで。幸か不幸か、これまで日本映画は日本の市場だけで完結できているという状況があったわけですけど、今後はそういう状況でもなくなってくると思うので。やっぱり、外に向かってトライしていかないと、なかなか未来がないのかなって。それこそほかの監督の方たちと話をしてると、必ずそういう話になりますね」

宇野「『ふりふら』をそのまま海外にもっていったら、『なんだこの恋愛映画は!』『なにも起こらないじゃないか!』ってことで、世界中の映画ファンの間で話題になったりするよう気がするんですけど(笑)」

三木「なるほど。『この作品を海外で』というのは、まったく発想がなかった(笑)」

思わず笑みをこぼす三木監督
思わず笑みをこぼす三木監督撮影/河内 彩

宇野「真面目に、現在の世界の映画状況的にも、これこそが本当の意味で“オリジナル”だと思いますよ。絶っ対に日本でしかあり得ない作品だから。三木作品の場合、技術面においては世界基準をクリアしているわけだし」

三木「そうか。むしろそういうことかもしれませんね」

宇野「権利関係などいろんな事情があって持って行きにくいのかもしれませんが、日本のメジャー映画の中にも胸を張って海外にもっていける作品は少なくないと思うんですよ。それこそNetflixでもAmazonでもいいと思うんですけど、賞ねらいのインディペンデント作品だけではなく、メジャー作品の海外セールスのルートがもっと必要だと思います」

三木「(同席していたプロデューサーに向かって)是非、お願いします!(笑)」

取材・文/宇野維正



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