『万引き家族』『新聞記者』から『滑走路』へ…現代社会を映し出す“社会派ドラマ映画”の魅力
激務に追われる若手官僚、社会不安に悩む女性、いじめの標的となった中学生の物語
毎日終わりのない激務に追われ、精神科医のもとに通う厚生労働省勤務の若手官僚、鷹野(浅香航大)の苦悩と葛藤。30代後半に差しかかり、社会不安に悩まされるなかで、子どもを持つかどうかの選択を迫られる切り絵作家の翠(水川あさみ)と、高校の美術教師である拓己(水橋研二)の夫婦関係。加えて、幼なじみの裕翔(池田優斗)を助けたことをきっかけに、今度は自分がいじめの標的になってしまった中学生の学級委員長(寄川歌太)と、彼の数少ない友人であるクラスメイトの天野(木下渓)のささやかな交流。これら3つのエピソードが柱となり、物語は展開していく。
中学生からその親世代まで、多様な男女の人生がミステリアスに交錯。実力派キャストと、500人の応募者の中から選ばれた期待の若手キャストたちによる、静けさのなかに心の叫びを秘めた迫真の演技が、観る者の胸に鋭く突き刺さる。
対立する存在の視点もしっかりと描き、双方の理解を深める
注目すべきは、本作のストーリーが社会的“弱者”の目線から描くだけでなく、社会的“強者”と思われがちな官僚側の視点も盛り込まれていること。人間関係とは、絶対不動のものではない。多くの場合、対立する存在として描かれがちな権力側もまた、理想と現実との間でもがき苦しんでいる姿をきっちりと描いていることは、双方の理解を深めることにつながっていくに違いない。
奇しくもコロナ禍によって世の中は、本作が撮影された時よりもはるかに厳しい状況に置かれている。新型コロナウイルスの感染拡大は非正規雇用の人たちを直撃し、解雇や雇い止めの問題も急増。ソーシャル・ディスタンスが浸透するとともに、人との距離感も変わり、社会の分断や対立、他者への不寛容はますます悪化している。そんななかで、非正規雇用、いじめ、過労、キャリア、自死、遺族といった、現代を生きる人々が抱える問題を真正面から描いた『滑走路』は、他人の不幸に無関心な現代社会への警告であり、将来への願いを込めた、いままさに観るべき社会派ドラマ映画だと言えるだろう。
文/石塚圭子
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発売・販売元:TCエンタテインメント
■ 『新聞記者』
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