ジャンル映画の鬼才・藤井秀剛が新作『超擬態人間』に込めたカルト・ホラー愛
「自分自身の闇と対峙する怖さをぜひ感じてほしい」
中学卒業後、単身渡米し、カリフォルニア芸術大学を卒業。10年間の米国生活を経て今日に至る。作り手の意図が「理解できる、できない」といった次元を超えた、そんな衝撃を持つ、重量級のパンチのごとき映画を志している。
「もともとこの脚本を書いたのは20年ほど前で、当時は内容が違いました。僕は“お化け”と呼ばれる存在に興味を感じないというか、物理的に信じられないんですね。だからお化けだと思われていたものが科学的に解明できる映画をつくろうと考え、『擬態霊』のタイトルで脚本を完成させたんです。ところがある事情で製作できず、そんな折に、明治生まれの日本画家、伊藤晴雨の『怪談乳房榎図』と出会ったんですね。たまたま新聞を見たら載っていて、日本で唯一、赤子を抱えた男の幽霊のそのデザインに圧倒され、作品が醸し出すエネルギーを映画のベースにしたところがあります」
さて最後に、タイトルの肝となっている“擬態”という言葉。フライヤーなどには「天敵から身を守る為に変異すること」とある。
「観ていただくとわかると思いますけど、“擬態する奇形たち”と複数形にした『Mimicry Freaks』という英題のほうが内容に合っているかもしれませんね。もともと昆虫の擬態に興味があったのですが、昆虫は生きる手段として即物的に擬態を選ぶ。ところが人間の場合は“心の闇”に繋がっている。すなわち僕もそうですがみんな、表と裏の顔が違っていて、擬態は隠そうとした自分の弱さを逆に炙り出してしまうんです。自分自身の闇と対峙する、人間の深層領域の怖さをぜひ感じてほしいですね」
取材・文/轟夕起夫
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