【今週の☆☆☆】俳優たちの“肉体”のポテンシャルも実感できる『アンダードッグ』、藤原季節主演の青春映画『佐々木、イン、マイマイン』など、週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今回は、11月27日から今週末の公開作品をピックアップ。森山未來、北村匠海、勝地涼が“咬ませ犬”のボクサーに扮するドラマ、俳優志望の青年と仲間たちの過去と現在を描く青春映画、ナチスの迫害から逃れ、亡命生活を強いられる中で成長していく少女を描く感動作の、胸に響く3本!
引退と向き合うボクサーの激動の運命…『アンダードッグ 前編』(公開中)
安藤サクラを主演に迎え、ボクシング映画の成功作となった『百円の恋』。その監督の武正晴と脚本の足立紳が再タッグ。引退と向き合うボクサーの激動の運命を前・後編の2部作で描く。主人公の末永晃は、日本ライト級1位まで登りつめるも、一度もタイトルをとれなかった。その屈折感を引きずりながら、「咬ませ犬」としてリングに立ち続ける彼が、テレビ番組の企画で、落ち目の芸人、宮木と対戦することに……と、この上ない屈辱も強いられ、自らの引き際を考える晃のドラマは、とことん切実だ。演じる森山未來が、そんな晃役で感情を抑え込んだ名演技を披露。一方でボクサーとしての動きは明らかにプロのそれであり、この俳優の肉体のポテンシャルを実感する。そして対戦相手、宮木役の勝地涼もキャリア最高の熱演。芸能人としての悲哀が闘争本能に変わる瞬間は、観ているわれわれも背筋がゾクッとするほど!大興奮のラストの後、北村匠海扮する若きボクサー、龍太が晃との対戦を望む【後編】へとつながっていく。(映画ライター・斉藤博昭)
“青春との決別”の切なさと痛み…『佐々木、イン、マイマイン』(公開中)
主人公の名前をそのまま題名にした映画はよくあるが、本作の“佐々木”はそうではない。主人公は20代後半になっても役者としてうだつが上がらず、別れたはずの恋人とも煮えきらない関係を引きずる悠二。そんな何もかも中途半端で、人生の道標を見失いかけた悠二の脳内にフラッシュする高校時代の親友、それが“佐々木”なのだ。教室で素っ裸になって踊り狂ったり、意味不明のエネルギーに満ちあふれていた佐々木は、悠二にとって高校時代を輝かせてくれたヒーローのような存在だ。はたして佐々木とは何者だったのか。佐々木に励まされ、役者の道を歩み出した自分は、なぜ今はふがいない人間になってしまったのか。悠二の追想を通して現在と過去を行き来する映像世界は、人生の光と影をくっきりと浮き彫りにしながら心揺さぶるクライマックスに向かっていく。ユニークな構造のストーリー展開、繊細かつ生々しい描写で、“青春との決別”の切なさと痛みを観る者の胸にずしりと響かせる快作だ。(映画ライター・高橋諭治)
過酷な状況下で見出す小さな喜びや家族の絆…『ヒトラーに盗られたうさぎ』(公開中)
ドイツの絵本作家、ジュディス・カーの自伝的小説の映画化。監督は、カロリーヌ・リンク。寡作ながら(日本劇場公開は、『名もなきアフリカの地で』以来4作目)、どこか“絵本”のような手触り、少女の目を通して世界の理不尽さや残酷を映し出す手腕は健在だ。裕福な家庭で育った9歳のアンナは、ある朝突然“家族でスイスへ逃げる”と告げられる。ヒトラー批判を続けて来たユダヤ人で辛口演劇批評家の父は、弾圧の気配を感じ、かねてより亡命の準備をしていたのだ。アンナは大好きなうさぎのぬいぐるみをお手伝いさんに託し、スイスへ向かう――。安全と仕事を求め、スイスからパリ、そしてロンドンへ。一家の逃亡生活は、居を移すたび困窮を極めていく。『~アフリカの地で』同様、ナチスの迫害を早々に察知し、逃げ延びた家族の物語だが、知人もなく言葉も環境も違う中で生活を立てることが、いかに心細く困難なことか。ハラハラあり、心が痛む逸話あり、衝撃あり。しかしアンナという利発で健気な少女を主人公に据えたことで、むしろ人間観察も的を射て、悲愴感よりも、過酷な状況下で見出す小さな喜びや家族の絆が心に強く残る。家族4人の気持ち、全員に共感必至!(映画ライター・折田千鶴子)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼