アメリカの政治映画はなぜおもしろい?「役職」でアメリカ選挙活動を紐解く映画・ドラマ21選
混沌の2020年がもうすぐ終わろうとしている。2020年のアメリカを揺るがしたものの一つ、11月に行われた大統領選はいまだに帰結を迎えていない。この異常事態はおそらく、今後の映画やドラマで描かれることだろう。アメリカの映画には政治を描いた作品が多く、そのどれもがエンターテインメントとして優れている。歴史的大統領選から改めて“政治と映画”を考え、アメリカの政治映画がなぜおもしろいのか、大統領の周辺人物を描いた映画から読み解いていこう。
アメリカ合衆国のトップ、「大統領」や「副大統領」を題材とした作品
第43代合衆国大統領のジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を勤めたディック・チェイニー(演じるのは体重を増やし完全に別人化したクリスチャン・ベール)が副大統領の“副”と“悪徳”の二重の意味を持つVICEである所以を描く『バイス』(18)。監督のアダム・マッケイはお笑い出身だが、政治経済をシニカルな視点で描く作品を多く監督している。ちなみに、今作でブッシュ大統領を演じたのはサム・ロックウェルで、オリバー・ストーン監督の『ブッシュ』(08)ではジョシュ・ブローリンが演じている。どちらも風貌は決して似ていないのだが、話し方や仕草などの細かなところを取り入れ、見事に“ブッシュ化”している。ジョージ・W・ブッシュ政権の悪行については、マイケル・ムーアによるドキュメンタリー『華氏911』(04)に詳しい。
大統領を陰ながら支える「大統領夫人」が登場する作品
第44代目大統領のバラク・オバマと後のファーストレディとなるミシェルの初デートを描いた『サウスサイドであなたと』(16)は、大統領夫妻の伝記ではなく、青春ラブストーリーとして作られている。ファーストレディを描いた映画では、第35代大統領ジョン・F・ケネディがテキサス州ダラスで銃弾に倒れたあと、すべてを失ったジャックリーン・ケネディ(ナタリー・ポートマン)の気丈さを描いた『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(16)がある。また、JFK銃撃事件については、オリバー・ストーン監督の『JFK』(91)が、事件直後に逮捕されたリー・ハーヴェイ・オズワルド(ゲイリー・オールドマン)を調査する地方検事(ケビン・コスナー)を中心に描いている。
切っても切れない「政治とメディア」の関係を描く作品
ウォーターゲート事件の調査報道を行ったワシントン・ポスト紙の記者をロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンが演じた政治映画の金字塔『大統領の陰謀』(76)は、そのウォーターゲート事件が表面化したことにより辞職したニクソン元大統領とのインタビューを描く『フロスト×ニクソン』(08)に続いていく。新聞社の政治部記者を描くものでは、スピルバーグ監督がトム・ハンクスとメリル・ストリープを迎え撮影開始からわずか半年で完成、公開された『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)という傑作もある。
また、ソダーバーグ組で『コンテイジョン』(11)などの脚本を執筆したスコット・Z・バーンズの『ザ・レポート』(19)は、ダイアン・ファインスタイン上院議員(アネット・ベニング)にCIAの勾留・尋問を検証する極秘調査を命じられた一介の職員(アダム・ドライバー)が、膨大な量の資料と孤軍奮闘する姿を描く。実際にCIAがどんな尋問を行なってきたかは、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)が描いているとおり。