なぜ、宣伝マンは真冬の樹海でハーバリウムを作ったのか?【実録映画宣伝 樹海の絆】
「ロマンスの神様 どうもありがとう」
樹海からの帰り道、雪道を走る車のなかでは、無事に目的を達成した2人がハイテンションで笑いあっていた。
真昼の空は抜けるように晴れ渡っており、気温も上昇して絶好の行楽日和となっている。対向車線を走る車のにはスキー板やボードを積み込んでいるのが見える。
窓を開けたKさんが「いいな、私もボード行きたいなあ」とつぶやく。Tさんが、「気分だけですけど」と言ってスマホを操作すると、広瀬香美の「ロマンスの神様」が爆音で流れ始めた。
OLの恋と結婚を歌って大ヒットしたこの曲。Kさんがやぶれかぶれに熱唱するサビの歌詞、「土曜日 遊園地 一年経ったら ハネムーン」というフレーズが心に残った。
ロードサイドのファミレスでラーメンを食べ、帰り足のコンビニに立ち寄って飲み物を買っていると、Tさんの携帯に宣伝プロデューサーのSさんから着信があった。
電話に出たTさんの顔色がどんどん曇っていく。Tさんは電話を終えて切りだした。
「Sさんから、“樹海村の事故物件”を探してきてくれ、とのお達しです」。
謎の言葉、“樹海村の事故物件”とはなんのことだろうか。弛緩していた空気が一瞬にして張り詰めた。
<後編に続く>
取材・文/編集部
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