「想像力が、子どもたちの糧になる」『ラーヤと龍の王国』クリエイター陣が明かす、未来へ託した想い
「『ミナリ』とテーマが共通することには、表現が背負う宿命を感じました」(グエン)
――3人には大きな信頼関係が築かれているようですね。『ラーヤ』は6年前に企画された物語ということでしたが、いまこの映画が世に出ることに意味があるような気がしました。
グエン「この映画を公開するのに、これ以上のタイミングはないと感じています。私たちは1年半前に本格的な制作に入りましたが、テーマは現在世界が置かれた状況とリンクしており、いま皆が必要だと感じていることが描かれています。この分断されたいまの社会情勢において、(映画が描いている)非常に希望に満ちた視点を含めて、お互いが対話を始めるきっかけになればと思っています。僕たちの映画がそのために少しでも貢献できればいいと思いますし、それだけの価値がある作品だと自負しています」
エストラーダ「子を持つ親の立場としては、この映画が生きていくため重要なことについて子どもたちと会話する糸口になると考えています。ドンが監督した『ベイマックス』がまさにそんな映画でしたね。『ベイマックス』では悲しみを癒すことを、『ズートピア』では偏見を持たないことを、そして『ラーヤ』は信頼と希望について、家族が話し合うきっかけになるといいですね」
ホール「僕らは1年半前にミーティングで出会い、“信頼と団結”をテーマに選びました。新型コロナウイルスが流行している世界の現状と非常にリンクするテーマですが、その当時はもちろん、パンデミックなんて想像もしていませんでした。ですから、映画を作る過程はこの物語のタイムリーさに驚かされる日々でした。僕もカルロスが言っていたように、この映画には人々がいま話し合うべきテーマが内包されていると感じています」
――日本で2021年に公開される『ノマドランド』(3月26日公開)も『ミナリ』(3月19日公開)も、奇しくも団結と信頼というテーマを持っています。映画の同時代性について考えることはありますか?
グエン「『ミナリ』は愛さずにいられない、本当にすばらしい映画だったと思います。私はアーカンソー州出身なんですが、あの土地で農業を営む韓国人移民の物語は、私自身の物語ととても近かった。映画を作るものは等しく、全くの白紙からスタートするものです。なのに、相当な時間をかけて映画を作った末、同じような時期に同じようなテーマの作品が世に出るというのは、表現が背負う宿命のようなものを感じます。人々が『ノマドランド』や『ミナリ』について語る際に、私たちの映画も加えていただければ本当に光栄ですね」
「“想像力”は、世界が再び門を開いたときに、新しいものを生みだす糧になる」(エストラーダ)
――このパンデミックは、私たち大人にとっても大変辛い状況ですが、子どもたちは、友達に会うことも、外で遊ぶことも、学校に行くことも自由にできなくなってしまって、とても苦しい思いをしていると思います。この映画が、いまの世界と共存していかなければならない子どもたちにどのような力を与え、励ましになることを願いますか?
グエン「私の子どもたちはまだ幼いんですが、 自粛生活が1年間にも及ぶと、ほかの子に会うことに恐れを感じ始めているようです。この映画のテーマの一つは、“自ら手を差し伸べて、友達を作ること”なので、ラーヤは旅すがらトゥクトゥク、シスー、ノイ、ブーンといった仲間たち、そして最終的には敵対してしまったかつての友人、ナマーリに出会うわけです。大人たちが“信頼”について子ども達と会話する際には、『私たちは、新しい友達に出会うため、世界に飛びだすことが出来るんだよ』ということを付け加えてもらいたいと思います。ラーヤは“人を信じること”について、パンデミックのなかで子どもたちが感じているのと同じような恐怖を抱えているのだと思います。彼らに伝えたいことは、ある程度以前のような生活が戻って学校へ行った時、友情に対し自分自身が向き合うことを恐れてはいけない、ということ。だから、この映画が公開されるのにいま以上にうってつけのタイミングはないと思っています。私も子どもたちと、映画を観てなにを感じたのか話し合おうと思っています」
エストラーダ「人間が持つ“想像力”は、ひどく過小評価されていると感じています。想像のなかで新しい世界を旅して、新たな仲間やキャラクターに出会うことができるのは、とても美しいことだと思うんです。子どもの頃の僕はディズニーのアニメーション映画がきっかけで映画監督になろうと思ったのですが、夢が実現したいま、人々の想像を超える世界を作るという映画制作の仕事を、とても尊いものだと感じています。コロナ禍で子どもたちが抱えている辛い思いは、やがて世界が再び門を開いた時に、自分が持つ才能を開花させ、新しいものを生みだす糧になる気がしているんです。この映画が、未来をよりポジティヴにとらえ、生きていることの尊さについて考えるきっかけになればいいなと思っています」
取材・文/平井伊都子