ポスト・クラシカルの旗手、マックス・リヒターが音楽を創造する理由「私たちが直面する多くの問題に光を当てる」
「映画音楽は、あたかも最初からそこにあって、不可欠な要素として存在する」
リヒターのデビューアルバム「メモリーハウス」は商業的に失敗し、レコード会社の活動停止もあり、廃盤扱いになってしまう(のちに再発売)。その後、「ブルー・ノートブック」などによって成功を手にしていくわけだが、劇中ではその苦難の道程も語られている。また、「スリープ」の制作に着手した際、その制作費用を稼ぐために映画音楽の仕事を受け始めたというエピソードも明らかになる。
楽曲を生みだすプロセスを「音楽を発見していくこと」と表現する彼にとって、オリジナルと映画音楽では、それぞれの観点が異なるようだ。
「映画音楽は、あたかも最初からそこにあって、不可欠な要素として存在しなくてはなりません。制作過程では、監督をはじめ、スタッフと一緒に作り上げていくという楽しさもあり、実験的な作業でもあります」
「宇宙で記録されたデータを基に作った音楽なんですよ!」
リヒターが映画音楽を作るおもしろさを、より明確に実感したのが、ブラッド・ピット主演のSF大作『アド・アストラ』だ。本作はピット演じる宇宙飛行士が、太陽系の彼方に消えたと思われていた父の謎を追って宇宙へ旅立つというストーリー。リヒターにとって初めて参加したハリウッド大作で、その宇宙的な音空間を感じさせる独特な楽曲は、第63回グラミー賞において最優秀スコア・サウンドトラック賞にノミネートされている(受賞は『ジョーカー』(19)のヒルドゥル・グーナドッティル)。
この作品はリヒターのキャリアにおいて最も大きなプロジェクトの一つと言える。参加を決めた理由について、「ストーリーに強く惹かれました。そして、ジェームズ・グレイ監督が映像作家として、とてもすばらしい方だということもわかっていました」と振り返る。
一方で、「実は、5歳の時の私の夢が宇宙飛行士になることだったんです。それで、『ついにこの夢を叶える機会が来た!』と感じました(笑)」とも続け、幼少期から宇宙への憧れがあったことも教えてくれた。
さらに、「『アド・アストラ』に参加できたことは非常にすばらしい経験で、多くの実験的な取り組みの機会にも恵まれました。その一つが、実際に(無人惑星探査機)ボイジャーが収集した“宇宙の音”を使用できたことです。宇宙空間で流れる音楽は、実際に宇宙で記録されたデータを基に作った音楽なんですよ!」と声を弾ませるリヒター。『アド・アストラ』の楽曲制作は、宇宙をより身近に感じられる作業でもあったようだ。
「スリープ」のコンサートを疑似体験でき、リヒターの音楽のルーツや向き合い方、家族との絆も感じることができる『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』。単なる記録映像では終わらず、音楽や演奏の映像に引き込まれ、インスピレーションにも刺激を与えてくれる。普段の喧騒を忘れ、劇場でその世界観にどっぷりと浸ってみてほしい。
取材・文/平尾嘉浩
Blu-ray 発売中
価格:4,743円+税
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
■『アド・アストラ』
Blu-ray 発売中
価格:2,381円+税
発売・販売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
■「ブルー・ノートブック」
発売中
価格:1,800円+税
■「25%のヴィヴァルディ Recomposed By マックス・リヒター」
発売中
価格:2,500円+税
■「スリープ(SLEEP 8時間ヴァージョン)」
発売中
オープン・プライス
■「フロム・スリープ 」
発売中
価格:2,800円+税
■「ボイジャー マックス・リヒター・ベスト」
発売中
価格:2,500円+税
■「ヴォイシズ」
発売中
価格:3,000円+税
■「『アド・アストラ』オリジナル・サウンドトラック」
デジタル配信
■「ヴォイシズ 2」
4月9日(金)発売
オープン・プライス
発売元はすべてユニバーサル ミュージック合同会社