【今週の☆☆☆】竹中直人、山田孝之、齊藤工の監督作『ゾッキ』、“普通”の意味を考えせられる『僕が跳びはねる理由』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、クリエイターとしても活躍する3人の俳優がが共同監督を務めた話題作、シングルマザーが自力で家を建てようとするヒューマンドラマ、自閉症の作家・東田直樹のエッセイを映画化したドキュメンタリーの、新たな世界と才能に出会える3本!
3人の並々ならぬ映画愛と卓越した映像センスに溢れている…『ゾッキ』(公開中)
大ヒットアニメ『音楽』(19)の原作コミックなどで知られる漫画家・大橋裕之の初期短編集を、竹中直人と山田孝之、齊籐工(斉藤工の監督名義)の3人が共同監督で実写映画化! そのニュースを最初に聞いたときは3人がいい意味でお気楽に作るんだろうな?と思っていたが、失礼しました!お見逸れしました!原作の複数のエピソードを描く本作は3人の並々ならぬ映画愛と卓越した映像センスに溢れていて、いい加減なところや妥協が一切ない本格的な仕上がりに。各々のエピソードが絡み合う構成も絶妙で、その中で誰もが抱えている秘密や後悔、拭いきれない記憶や性的な妄想などが独特な笑いと不思議な多幸感で描かれるから、愛おしさが込み上げてくる。しかも松田龍平、吉岡里帆から『佐々木、イン、マイマイン』(20)などの森優作、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)などの南紗良といったフレッシュな面々までの多彩なキャストが自分のキャラクターに全力で命を注入。原作者の故郷・愛知県蒲郡市でのロケを敢行し、地方の空気もちゃんと伝えているから驚いた。3人が演出したパートを何となく想像しながら観ていけば、エンドクレジットでその答えが明かされて、やっぱり! と思ったり、ヘ~って驚いたりできる楽しみも。撮影の舞台裏を追った『裏ゾッキ』(春公開予定)も観ると、本作に込められた3監督やキャスト陣の想いがより深く伝わり、本作のことがもっともっと好きになるに違いない!!(映画ライター・イソガイマサト)
“普通”の意味について深く考えるきっかけに…『僕が跳びはねる理由』(公開中)
自閉症の作家の東田直樹が13歳の時に執筆し、その内面や葛藤を鋭い言葉で綴ったエッセイを映画にしたドキュメンタリー『僕が跳びはねる理由』。現在公開中の『旅立つ息子へ』など自閉症を抱えた登場人物とその周囲の人々のドラマを描いた作品は数多く存在するが、本作では彼らが何を考え、世界をどのように見て、聞いているのかに迫っている。劇中では5人の自閉症の男女が登場し、一人ひとりが感じていることも様々。印象的なのは、原作から引用された「みんなは物を見る時まずは全体を見てから部分を見ていると思う。僕の場合はまず部分が飛び込んでくる」や「僕の記憶は点の集まり。その全部がバラバラでつながらない」というナレーションの言葉で、その独特な感性が映像で表現され、観ている人にも彼らの世界を疑似体験させてくれる。すべてを理解したとは言えないが、少なくとも自閉症の人たちへの見方が変わり、また何気なく使っている“普通”の意味について深く考えるきっかけも与えてくれる。(ライター・平尾嘉浩)
社会から見放されても、決して一人だと思わないで…『サンドラの小さな家』(公開中)
アイルランドのダブリンを舞台にDV夫から逃げた母と娘が隣人たちに助けられながら、 自分たちの手で家を建てようと奮闘する『サンドラの小さな家』。サンドラ役で主演しているクレア・ダンが脚本も手掛けている。彼女は高騰する不動産のせいで、家を追い出され、住む場所を失ったシングルマザーの友人を励まそうとこの作品を手がけたという。凄まじい暴力を受け、やっとの思いで家を出る決心をしながら、シングルマザーとして生きることの現実の厳しさにふと以前の生活に戻ろうかとさえ揺らぐサンドラ。危なっかしい彼女の生きざまにドキドキしながら、いつしか隣人たちと同じように彼女を見守る気持ちになっている。それだけに素人の彼女が一から作り上げた家ができた時の喜びもひとしおだ。頑張れ。負けるな。社会から見放されても、決して一人だと思わないで。作品を通じて、クレアが友だちに送りたかったエールがぐっと胸に迫る。(映画ライター・髙山亜紀)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼