批評家が選ぶ、アンソニー・ホプキンス出演作ランキング!『羊たちの沈黙』から30年、“フレッシュ”なおすすめ10選
最も高い98%フレッシュの高評価を獲得したのは、ホプキンスが『羊たちの沈黙』以来29年ぶりにアカデミー賞主演男優賞を受賞した『ファーザー』(公開中)。この受賞は同部門の史上最高齢候補にして史上最高齢という大記録であり、イレギュラーな形式で行われた授賞式ではホプキンスの欠席も相まって少々盛り上がりに欠けることとなったが、いざ作品を観てみれば誰もが納得せずにはいられない、歴史に残る名演といえよう。
認知症をテーマに、患者側の視点からその苦しみや戸惑いを描きだすという画期的な舞台劇を、原作者であるフローリアン・ゼレールが自らメガホンをとって映画化した同作。ほぼ室内のみで繰り広げられる、娘役のオリヴィア・コールマンとの巧妙な演技合戦。物語の持つドラマ性やサスペンス性、そして薄れゆく記憶への執着と、そこはかとない恐怖さえもが、すべてホプキンスの演技によって形作られていく。
また上位には、96%フレッシュを獲得した『羊たちの沈黙』をはじめとした代表作がずらりとならぶ。カズオ・イシグロの同名小説を原作にした『日の名残り』が95%フレッシュ、『君の名前で僕を呼んで』(17)の脚本家ジェームズ・アイヴォリーが手掛けた『ハワーズ・エンド』が94%フレッシュと、ホプキンスのイメージに合致した荘厳な文芸作品はいずれも高評価。それらを上回る97%フレッシュの高評価を得たのは、ホプキンスと5度タッグを組んだ名匠リチャード・アッテンボロー監督の『永遠の愛に生きて』。同作でホプキンスは、「ナルニア国物語」の著者C・S・ルイス役を演じている。
同作のような“実在の人物”というのは、レクター博士や文芸劇とならんでホプキンスを語る上で欠かすことができないキーワードだ。キャリア初期には第一次大戦中の英国首相デイヴィッド・ロイド・ジョージや、テレビ映画ではアドルフ・ヒトラーも演じ、90年代にはリチャード・ニクソン大統領や天才画家のピカソ。そして近年ではサスペンス映画の神様アルフレッド・ヒッチコックからビール会社を経営する大富豪のフレディ・ハイネケンと、いずれもその人物に成り代わったかのような自然体な演技で観る者を圧倒していく。
89%フレッシュを獲得した『2人のローマ教皇』もまた、“実在の人物”を巧みに演じきった傑作だ。第265代ローマ教皇で現在の名誉教皇でもあるベネディクト16世を演じ、22年ぶりにアカデミー賞ノミネートを果たした同作では、同じウェールズ出身のジョナサン・プライス演じるベルゴリオ枢機卿(現在のローマ教皇フランシスコ)と静謐なる対話を繰り広げていく。派手な描写が一切無いにもかかわらず、2時間の上映時間をこの2人の演技だけで保たせるというのは、フェルナンド・メイレレス監督の卓越した演出力以上に、あらゆる役柄を独自のメソッドで演じつづけてきた名優だからこそできるものだと思わずにはいられない。
80代にして新たな代表作を得たホプキンスは、今後も多くの出演作が控えている。近いうちに自らが持つアカデミー賞の最年長記録を更新したとしてもなんら不思議なことではないだろう。
文/久保田 和馬