俺様TVプロデューサーの復讐劇が始まる/脚本家・徳永友一 第6回「リアリティショー始動!」【未成線~崖っぷち男たちの逆襲~】

コラム

俺様TVプロデューサーの復讐劇が始まる/脚本家・徳永友一 第6回「リアリティショー始動!」【未成線~崖っぷち男たちの逆襲~】

翔んで埼玉』『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~』(ともに19)の脚本家・徳永友一が初めて手掛けるオリジナル小説として、「DVD&動画配信でーた WEB」特別連載。脚本家を目指す中年男・吉野純一、若手脚本家として闘う男・宮間竜介、2人を巧みに操る男・滝口康平、3人の男のリアリティドラマが始まる。プロデューサー滝口康平の復讐劇が始まろうとしていた。“リアリティドラマ”の配役は宮間や吉野を宛てがい、リアルさを追求するため、どのように動かすか思考を巡らせる。

【画像を見る】復讐のため思考を巡らす滝口
【画像を見る】復讐のため思考を巡らす滝口イラスト/浅妻健司

第6回「リアリティショー始動! 滝口編」

「1ページも面白くない」

 狭い会議室で、俺はそう言うと原稿を放り投げた。目の前には疲れ切った表情の宮間がいる。おそらく、寝ずに書いて来たんだろう。10月クールのドラマはオリジナルドラマで勝負したいと思っていた。だから俺は自分が考えた企画を宮間に話し、3日間で1話の脚本を書かせたのだ。と言っても、この打ち合わせの3時間前に10月クールの話は消えた。この原稿はどっちみち無駄になったことになる。

「まあいいや。俺が作るから」

 ホワイトボード前に立つと、俺は1シーンごとに話を作り始め、6時間みっちり宮間を拘束すると、明日までに脚本の形にして来るよう指示を出す。そして、本題を告げた。

「宮間。お前、脚本スクールで講師やってるよな?」

「あ、はい……」

「上から単発ドラマやれって言われちゃってさ。誰か紹介してくれない?」

「はい。どんな作風の人がいいですか?」

「作風とかどうでもいいから、一番、つまらないもん書く冴えない奴を頼む」

 この時から俺が考えていた新企画、“リアリティドラマ”が始まっていた。



「えー、その脚本家さん可哀そうじゃない?」

 深夜のキャバクラで、いかにも頭の悪そうな女が声をあげた。

「どこがだよ。そいつは俺のおかげで食えてんだよ。いつも話作ってんの俺なんだから」

 それは本当にそうだ。宮間は俺が考えたもので脚本のギャラ以外に印税までもらっているのだ。どんなにこき使おうと文句を言われる筋合いはない。

「これから俺が、“恋愛リアリティショー”に負けない“ドラマリアリティショー”を作ってやるよ」

 俺はそう言って携帯を取り出し宮間に電話をかける。

「どう? 書いてる?」

「あ、はい。書いてます」

 平静を装ってそう返答しているが、内心イラついていることぐらいわかる。俺はさらにイラつかせるセリフを吐く。

「主人公の友達もう一人増やそうかと思ってさ。20代の女」

 これには、さすがの宮間も反論して来たが、逆ギレして黙らせる。

「てことで、女キャスト追加したバージョンでよろしくな」

 そう言うと一方的に電話を切ってやった。これであいつはまた寝ずに書いて来るだろう。それでいい。ストレスを溜めさせて爆発させるのだ。

 品川にあるタワーマンション前でタクシーが止まった。ここで俺は妻と娘と住んでいる。家に帰って来たのは深夜3時過ぎ。妻とまだ2歳になる娘はとっくに眠りについている。結婚して4年が経つが夫婦間の関係は冷え切っている。家に帰って来るのは決まって、深夜0時過ぎ。正直、いつ離婚を切り出されてもおかしくないと思っている。いや、むしろ離婚を切り出してほしいとさえ思う。俺にはやはり結婚生活は合わなかった。自由気ままに一人で生きる方が性に合っている。


 翌日。恵比寿の喫茶店で宮間が紹介して来た脚本スクールの生徒である、吉野純一と会っていた。見た目からして想像以上に冴えないおっさんだ。

「とりあえず、また連絡しますので」

 俺はそう言うとおっさんに帰るよう促した。一体何が始まるのか?と不安げな顔を見せたまま帰って行く。その姿を見送りながら俺は宮間に声をかけた。

「いい感じだな。あのダメさ加減。お前、いいキャスティングしたよ」

「はい……」

「ってことで、お前もこっちにまわってあのおっさんのサポートやってくれ」

「え?」

「実際問題、あいつじゃ書けないだろ。裏でお前が脚本書いてやれ」

「あ、いやでも、僕は10月の連ドラが」

「あー、それなら問題ない。他の脚本家に話振っといたから」

 宮間が絶句しているのがわかる。そりゃそうだ。ゴールデン帯の脚本家から、一転してネット配信ドラマのゴーストライターをやれと命じられるなんて普通なら断る。だが、そうはさせない。

「それやりながらお前とは、来年の4月クールの連ドラの準備に入りたいんだよ」

「来年の?」

「ああ。映画化まで決まってる大型企画だ。10月クールをこのまま書くか、映画化こみの連ドラやるか、どっちがいい?」

 もちろん、来年の4月の話なんて全部嘘だ。こうして人参をぶら下げて走らせるための方便に過ぎない。息を吐くように嘘をつけるのが出来るプロデューサーってもんだ。

「そりゃ、映画化こみの方がいいですけど……」

「じゃあ、10月は降りて配信ドラマの手伝いに専念しろ」

「……はい」

 セットアップは整った。新進気鋭の若手脚本家が素人のおっさん脚本家と組んでドラマを作る。そこでは必ず摩擦が起きる。その制作過程をそのまま“リアリティ”としてオンエアまで動画配信してみせて行くのだ。俺が関川さんに出したネット配信を引き受ける条件とはこのことだった。今までにないドラマ作りをしてやる。そして、俺を干した関川の野郎を引きずり下ろしてやる。

「じゃあ、明日から打ち合わせ始めるぞ」

(つづく)

■徳永友一 プロフィール
1976年生まれ、神奈川県出身。TVドラマ「僕たちがやりました」(17)、「海月姫」(18)、「グッド・ドクター」(18)、「ルパンの娘」シリーズを手掛け、映画『翔んで埼玉』(19)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』(8月20日公開)、映画版『ルパンの娘』(10月15日公開)が待機中。

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