北野武、大林宣彦、デ・ニーロ…伝説のプロデューサー奥山和由が、新たな波乱を呼ぶ『女たち』へ至る道のり|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
北野武、大林宣彦、デ・ニーロ…伝説のプロデューサー奥山和由が、新たな波乱を呼ぶ『女たち』へ至る道のり

コラム

北野武、大林宣彦、デ・ニーロ…伝説のプロデューサー奥山和由が、新たな波乱を呼ぶ『女たち』へ至る道のり

公開中の映画『女たち』が、大勢の著名人から「今年注目の一本!」と激賞されている。異例のロングランを記録した『ミセス・ノイズィ』(20)で注目を浴びた女優の篠原ゆき子が主演を務め、倉科カナ、高畑淳子、サヘル・ローズら実力派女優陣が、先行き不透明なコロナ禍の日本で生きる“女たち”のありようを赤裸々に映しだしている。

篠原ゆき子が美咲役を熱演
篠原ゆき子が美咲役を熱演[c]「女たち」製作委員会

自然豊かな山あいの田舎町で、40歳を目前にした美咲は母の介護をしながら、地域の学童保育所で働いている。。東京の大学を卒業したものの希望する職に就くことができず、恋愛も結婚もうまくいかない独身女性。母の美津子は毎日罵詈雑言を浴びせ、美咲を否定し続ける。そんな生活から逃げだしたくても逃げだせない美咲にとって、唯一心のよりどころは親友である香織だった。しかし、ある日突然、香織が命を絶ってしまう。

美咲にとって唯一心のよりどころは親友の香織
美咲にとって唯一心のよりどころは親友の香織[c]「女たち」製作委員会


長年にわたる母との確執や親友との死別、そして生きづらさ。描かれるテーマは実に内省的にもかかわらず、鑑賞後に心に残るのは、解放感と爽やかさ。ウェットになりがちな題材のピントを“バトル・オブ・女たち”とばかりに、女たちの激しくも静かな暗闘に絞り、その抑圧された感情の発露を画に炙り出してみせた。確信犯的にそこにピントを絞り着火したのは、製作総指揮としてタクトを振るったレジェンダリープロデューサーの奥山和由だ。

北野武など異分野の才を参入させる、“邦画界の風雲児”

日本でプロデューサーと呼ばれる人は多数いるが、“レジェンダリー”との枕詞が付く現役映画人は彼くらいのものだろう。奥山なくして映画監督・北野武の誕生はなく、忠犬ハチ公の物語がハリウッドに渡ることもなかった。20代からプロデューサーという仕事を生業にし、津山三十人殺しを材にした驚愕のバイオレンス映画『丑三つの村』(83)を世に送りだす一方で、興収50億円を叩き出した『ハチ公物語』(87)を特大ヒットに導くなど、斜陽にあえぐ1980年代の邦画界で異能のヒットメーカーとして手腕を振るった。

北野武を映画監督としてデビューさせ、タッグを組んだ作品も多数
北野武を映画監督としてデビューさせ、タッグを組んだ作品も多数撮影/成田おり枝

1980年代の終わりには『その男、凶暴につき』(89)で映画監督・北野武をデビューさせ、その後も『3-4x10月』(90)、『あの夏、いちばん静かな海。』(91)、『ソナチネ』(93)でタッグ。世界のキタノの原点を作り、キタノブルーを世に知らしめる礎を築いたのは日本のみならず、世界の映画史においても重要な偉業といえる。

いまでこそ異分野の才を映画界に参入させるのは珍しい事ではなくなったが、封建的だった当時の日本映画界の思考回路では異例中の異例だった。その垣根を取っ払うことを奥山は積極的におこなった。北野のみならず、作家の村上龍、音楽プロデューサーの秋元康、俳優の竹中直人、歌舞伎俳優の坂東玉三郎、漫画家の石井隆にも積極的にメガフォンを握らせ、既存の邦画にはない化学反応をいくつも起こしてみせた。

スティーヴン・ソダーバーグ監督による『オーシャンズ11』は奥山作品に影響されたそうだ
スティーヴン・ソダーバーグ監督による『オーシャンズ11』は奥山作品に影響されたそうだ写真:SPLASH/アフロ

なかでも佐藤浩市、本木雅弘、竹中直人ら出演の石井隆監督作『GONIN』(95)は国内外にコアなファンを生み、スティーヴン・ソダーバーグ監督による『オーシャンズ11』(01)にも大きな影響を与えたとされる。また奥山自身も江戸川乱歩の世界観を映像化した『RAMPO』(94)で映画監督デビュー。製作までの紆余曲折も話題となりスマッシュヒットを記録。奥山には映画界の風雲児というイメージが定着した。

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