売れるほど疑心暗鬼に…漫画家役の菅田将暉が『キャラクター』で見せる、役作りにフォーカス
独自のカリスマ性で絶大な人気を博す若手屈指の実力派俳優、菅田将暉。これまでも数々の作品で多彩な役柄を演じ分け、カメレオン俳優とも称される菅田が、「悩みながらの現場だった」と明かす主演作『キャラクター』が現在公開中だ。『花束みたいな恋をした』(公開中)での恋愛や進路に迷う普通の大学生を好演していたことも記憶に新しい彼が、本作では一転して、創作への探求と殺人鬼への恐怖に心が引き裂かれていく漫画家に心身ともになりきっている。
バンド「SEKAI NO OWARI」のボーカル、Fukaseと共演し、漫画家と連続殺人犯の奇妙な“共犯関係”を描く『キャラクター』。お人好しな性格ゆえにリアルな悪役を描くことができない売れない漫画家の山城圭吾(菅田)が、偶然住宅街で一家惨殺事件の現場とその犯人である両角(Fukase)を目撃してしまう。山城は第一発見者として警察の取り調べを受けるが「犯人は見ていない」と嘘をつき、両角をモデルにした殺人鬼が主人公の漫画を描き始める。すると、その作品が大ヒットし、彼は一躍人気漫画家に。しかし、成功者となった山城の前に、突如両角が現れ「先生のファンです」と告げるのだった。
漫画やスケッチの練習を重ね、若手漫画家の“キャラクター”を完全習得
本作で初めての漫画家役に挑戦した菅田は、くせ毛の長髪に無精ひげという出で立ちで、仕事に没頭する若手漫画家を体現。何日もかけて漫画やスケッチの練習を重ね、Gペンの扱い方や漫画家の動作も習得したという。彼の役作りについて、「20世紀少年」や「MASTERキートン」といった浦沢直樹の漫画でストーリーを共同制作し、本作の原案&脚本を担当している長崎尚志も「撮影現場でまさかの驚きがあった。なんと20代の浦沢直樹氏に似ている…」と驚嘆。確かな演技力で作り上げられたその“キャラクター”に太鼓判を押している。
劇中の菅田は、漫画が売れれば売れるほど罪悪感を募らせ、疑心暗鬼になっていく山城を、暗い佇まいで表現している。縮こまった背中に固くこわばった表情、生気のない曇った瞳から、しだいにやつれ果ていく山城の苦悩や孤独がヒシヒシと伝わってくる。下積み時代から彼を支える妻、夏美(高畑充希)にも心を閉ざし、それでも漫画を描き続けるしかない山城が、作業部屋で一人涙を流しながらペンを走らせるシーンは、観る者の胸を締め付けるはずだ。
肉体的に、精神的にも追い詰められた山城の感情爆発も表現
一方、因縁の殺人鬼、両角と相まみえるクライマックスでは、山城の悲痛な叫びや憎悪の感情が一気に爆発!両者が血まみれになりながら、“痛みが伝わるアクション”を目指したというこのシーンは、一週間かけて撮影されたそうで、「思い切りやらないと伝わらないから、過呼吸になるところも演技を越えて、本当にそんな状態になってしまう」と菅田も漏らすほど過酷な現場だった。演技初挑戦のFukaseが怪演する神出鬼没の両角に翻弄されながら、肉体的にも精神的にも追い詰められていく山城が、戦いの末に一瞬狂気をにじませる形相は必見だ。
「漫画家としてアイデンティティがないことで悩み、禁断の果実に手を出し、帰ってこられないところに到達してしまう」と、菅田は自身の役柄を解説する。悩みながらも引き算の演技で、“病みゆく漫画家”を演じ切った菅田将暉。またまた新たな一面を見せてくれた彼を、ぜひスクリーンで刮目して観てほしい。
文/水越小夜子