『モータルコンバット』と『鬼滅の刃』が全米で散らした火花。ハリウッドを復活させた王道エンタメの“共通点”

コラム

『モータルコンバット』と『鬼滅の刃』が全米で散らした火花。ハリウッドを復活させた王道エンタメの“共通点”

モータルコンバット』(公開中)が北米で公開された4月23日、もうひとつのビッグタイトルがハリウッドに上陸した。それは日本歴代興行収入の新記録を樹立した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(公開中)。両者の上映館数に大きな差があったこともあって、最初の週末の興行収入ランキングでは『モータルコンバット』が勝利。しかしその差は215万ドルほどで、公開2週目には『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が逆転。今度はわずか20万ドルと、2週にわたって激しく火花を散らしあった。

いま、ハリウッドは“娯楽”を求めている!

アクション、アドベンチャーなどあらゆる娯楽映画の要素を“全部乗せ”!
アクション、アドベンチャーなどあらゆる娯楽映画の要素を“全部乗せ”![c]2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

遡ること1年以上前、2020年3月にアメリカ国内のほぼすべての映画館が新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受けて休業を余儀なくされた。日本でもゴールデンウィーク前後の約1か月間にわたって全国の映画館が休業する事態となったが、アメリカでは夏頃まで数か月続くことに。しかも、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市圏の映画館が再開されるようになったのは年が明けた2021年になってからのことだ。
もともと日本以上に「映画館で映画を観る」という行為が文化として根付いているアメリカで(2017年の統計によれば、1人あたりの年間劇場鑑賞本数は日本の1.4本に対し、アメリカでは3.4本と倍以上の差がある)、その日常的な習慣を奪われることのフラストレーションは計り知れないものがある。


コロナ禍のフラストレーションを吹き飛ばす痛快さに全米が熱狂!
コロナ禍のフラストレーションを吹き飛ばす痛快さに全米が熱狂![c]2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

そうした映画館休業の影響で、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(8月6日公開)や『トップガン マーヴェリック』(2021年公開)のような王道ハリウッド大作映画のほとんどが公開延期に。徐々に映画館が再開されていくなかでも、大スクリーンで観るにふさわしいスケール感を持った作品は限られており、『TENET テネット』や『ワンダーウーマン1984』が公開されるといずれも大熱狂で迎えられ、そのたびに映画興行の本格的な復活を期待する声が多々見受けられた。それはつまり、多くの観客がハリウッドらしい娯楽映画を求めている傾向が顕著なものとなったということだろう。

それはまず、大都市圏の映画館が再開された3月末に公開された『ゴジラvs コング』(7月2日公開)の大ヒットが証明する。公開から5日間の興行収入は4810万ドル。映画館の入場人員が制限されている段階のため、コロナ禍以前のような数字にはならなかったがそれでもコロナ禍以降最高のオープニング成績を樹立。しかも「Deadline」の報道によれば、劇場と同時に配信されたHBO Maxでも5日間で360万世帯がスマートTVを介して試聴するほどの大反響であったとのこと。

その流れで公開された『モータルコンバット』は、原作が1990年代に世界的なムーブメントを巻き起こした伝説的ゲームで、「ワイルド・スピード」シリーズや『アクアマン』(18)を手掛けたジェームズ・ワンがプロデューサーとして参加。壮絶なバトルアクションに、躊躇のない残酷さを加え、アドベンチャーやファンタジーの要素、さらには近年ハリウッドのトレンドであるアジア系俳優たちの活躍も取り入れ…と、ありとあらゆる方向性から観客の求めているものを凝縮させた、ハリウッドの娯楽映画にしかできない“全部乗せ”を実現したのだ。


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