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イザベル・ユペール×濱口竜介監督対談をロングバージョンでお届け!“演じること”と“撮ること”「私たちは映画によって動かされる」

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イザベル・ユペール×濱口竜介監督対談をロングバージョンでお届け!“演じること”と“撮ること”「私たちは映画によって動かされる」

現在開催中の第34回東京国際映画祭で、昨年に引き続き開催されている「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」。東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターの共催のもと、アジアをはじめとした世界を代表する映画人と、日本の第一線で活躍する映画人が様々なテーマでトークを展開していく。

10月31日に行われた第1回では、今年のコンペティション部門の審査委員長を務めるフランスの女優イザベル・ユペールと、『偶然と想像』(12月17日公開)で第71回ベルリン国際映画祭銀熊(審査員グランプリ)賞、『ドライブ・マイ・カー』(公開中)で第74回カンヌ国際映画祭脚本賞に輝くなど、いま世界で大きな注目を集める日本人監督のひとりである濱口竜介監督が登壇。演技に対する互いの思想や、ユペールが関わってきた巨匠監督とのエピソードについて語り合った。貴重なトークセッションを、イベントレポートに続きロングバージョンでお届けする。

「映画とは俳優の考えてる思想を示すこと」

ユペール「濱口監督の作品はほとんど全部観ております。そのなかで1本選ぶのは難しいことで、濱口監督の映画を観るということは新しく強力な映画言語を発見することでもあります。そして、映画が提供できる本質的で重要なことを表現していらっしゃる。偉大な映画作家には付き物かもしれませんが、濱口監督は映画にとって根本的な部分を把握していると思います。つまり、人が言葉で表現することと沈黙の間に、なにが起きるのかを表現する監督だと感じています」

濱口「脳がとろけるようなうれしい気持ちであります。私にとってユペールさんは映画史そのものです。僕は監督で映画を観ることが多いのですが、好きな監督の映画を観るとユペールさんが常にそこにいらっしゃる。今日思い当たったのは、ユペールさんが演技をしているというより、いつも映画の中に存在しているという印象なのです。そのなかから1本挙げるとしたらポール・ヴァーホーヴェン監督の『エル ELLE』が、複雑であり爽快痛快でありました。これはおそらく、ユペールさんを主役にしなければそもそも発想することすらできない物語であり、ユペールさん自身もこの役に対して深い理解があると感じました。

クロード・シャブロル監督の映画の頃から、“この世の中はなにか悪いことが起こる、この世界はそういう場所だ”ということを理解して表現しつづけている。そこから生きる力を掴み取っているところが、ヴァーホーヴェン監督と、シャブロル監督の共通点としてある気がして、その中心にいるのがユペールさんだと感じています。お二人とのお仕事についてお聞かせいただけますか?」

ユペール「シャブロル監督は周りの世界を理想化しようとせず、あるがままを見せます。個人が直接善や悪を映画の中で体現するのではなく、人間の中にそれらがある。そして周りの善や悪に人間が汚されてしまい、人間が悪の状況に陥ってしまう。彼が求めていたのは、世界を理想化したりロマンティックにさせた世界ではありませんでした。彼が見せていた世界は、不幸なことに我々が生きている世界なのです。私は女優として、彼が見せる世界には真理があると思います。

ヴェーホーヴェン監督は、『エル ELLE』の撮影に入る時に私にこう言いました。『あなたは女性だから私の方からなにか言う必要はない。この人物が感じていることは、あなたの方がわかっている』。主人公の中にある女性的な部分について男性の監督がなにかを支持したら、それは不条理だったりするだけなのです。あの映画ではすべての登場人物の心の動きを掴むことができますが、それでも謎や真理と呼べる部分が残っています。これがとても重要なことなのです。

映画で俳優が考えていること、思想を見せることは稀なことかもしれません。ですが濱口さんの映画では、俳優たちが考えていることがはっきりと出ています。たとえば『ハッピーアワー』の中で、編集者と結婚している人がいました。彼女はいつも下を向いている。目線が下を向いてるから、彼女が考えていることに意識をしてしまう。いつも彼女の思想が動いていることを感じるのです。このように、映画とは俳優の考えてる思想を示すことだ、と最初に私に言ったのはジャン=リュック・ゴダールでした。監督が、スクリーンでそれを見えるようにしなくてはいけない。それが監督の仕事です。濱口さんはそれをしていらっしゃる」

濱口「『ハッピーアワー』の登場人物について触れていただき、ありがとうございます。あの映画に映っている人たちは、私自身も素晴らしいと思っています。


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