『マリグナント 狂暴な悪夢』にも影響をもたらした!ジェームズ・ワンが愛する怖〜い映画&監督たち
「ソウ」や「インシディアス」、「死霊館」といった大ヒットホラーシリーズを次々と生みだしてきたジェームズ・ワン監督。最近は『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15)や『アクアマン』(18)などのアクション大作を手掛けていたこともあり、製作として数々の作品に携わっていたものの、ホラーの監督を務めたのは、2016年の『死霊館 エンフィールド事件』が最後となっていた。「死霊館」シリーズはジェームズ・ワン製作のもとユニバースとして拡張を広げており、最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(21)は、12月15日より先行ダウンロード販売が始まったばかり。
そんなワンが久々に監督したホラー映画『マリグナント 狂暴な悪夢』(公開中)は、ダリオ・アルジェントやブライアン・デ・パルマ、ウェス・クレイヴンらのホラーサスペンスからインスピレーションを受けている趣味丸出しとも言うべき1作だ。ここではワンが過去にインタビューなどで公言してきたお気に入りの作品をチェックしていきたい。
1970〜90年代のホラー、スリラーへの愛情が炸裂する『マリグナント 狂暴な悪夢』
暴力的な夫に悩まされていた女性マディソンは、夫が何者かに惨殺された日を境に、黒いコート姿の人物、ガブリエルが目の前で殺人を犯す悪夢を見るようになってしまう。しかも夢で見た殺人は現実とリンクしていることが判明。その謎を解決して殺人鬼を止めようと、妹と共に自らの秘められた過去と向き合っていく。
『マリグナント 狂暴な悪夢』には、1970〜90年代のホラー、サスペンス、スリラーのテイストが存分に盛り込まれており、例えば悪夢が現実になるというプロットは、アービン・カーシュナーの『アイズ』(78)そのもの。加えて、夢の中で暗躍する殺人鬼は、好きなホラー10選の一つに挙げているクレイヴンの『エルム街の悪夢』(84)を連想させる。
また映画のオープニングで登場するある人物が使う“超能力”は、デ・パルマの『キャリー』(76)やデヴィッド・クローネンバーグの『スキャナーズ』(81)を思わせ、ネタバレを含むため詳しくは言えないが、デ・パルマの『殺しのドレス』(80)、『レイジング・ケイン』(92)的な要素もあったりと、この時代のホラー、サスペンスを混ぜ合わせたユニークな1作となっている。
ジェームズ・ワンが敬愛する2大監督はアルジェントとリンチ!
そのなかでも『マリグナント 狂暴な悪夢』に多大な影響を及ぼしているのが、「ジャッロ」と呼ばれるジャンルだ。簡単に言うならばイタリアのホラー、スリラー作品で、鮮血が飛び散る凄惨な殺人シーン、スタイリッシュな映像やサイコロジカルな題材が持ち味。アルジェントやマリオ・バーヴァらの作品が代表される。
本作ではアルジェントの『サスペリア PART2』(75)や『歓びの毒牙』(70)を思わせるようなコート&手袋という殺人鬼のルックをはじめ、赤を基調としたライティング、主人公が自力で謎に迫る展開、フーダニット(Who done it=誰が犯行をおこなったか)にこだわる物語、とジャッロのスタイルが存分に踏襲されている。
ワンは『ソウ』の頃から、アルジェントを尊敬していると公言しており、なかでもピアニストがとある殺人事件に巻き込まれていく『サスペリア PART2』に関しては、好きなホラー作品を聞かれた際には、ほぼ毎回挙げてきたほどの寵愛ぶり。「大きな衝撃を受けた」と語っている。
その影響は『マリグナント 狂暴な悪夢』以前にも見ることができる。たとえば『サスペリア PART2』では不気味な人形が観客をゾッとさせるが、ワン作品にも「ソウ」シリーズのビリー人形をはじめ、『デッド・サイレンス』(07)の腹話術人形、「死霊館」シリーズのアナベル人形など、印象的な人形が登場している。ワンのフィルモグラフィーの影に、常にある1作なのだ。
アルジェントと並んで「大のファンだ」とワンが語っているのがデヴィッド・リンチだ。なかでも『ロスト・ハイウェイ』(97)は、ホラーではないが、怖い映画としてインタビューで何度も触れてきた1作だ。
「ビル・プルマンがパーティーでロバート・ブレイクと出会う場面は、最も不気味でクールなシーンの1つ」、「断片化された物語、騒々しい雰囲気、陰湿な音景、ダークな撮影が合わさり、リンチ的体験となる」とコメントを残しており、リンチの超現実的な世界観は『ソウ』にも受け継がれているようだ。