『マリグナント』ジェームズ・ワン監督のネタバレ全開インタビュー!ホラーマスターが明かす“究極のヴィラン”とは
「腫瘍は私たちにとって究極のヴィラン」
ガブリエルの初登場シーン、暗闇から地面に手をついてヌッと現れるその姿は、どことなく『リング』(98)の貞子っぽくもある。たびたび『リング』をフェイバリットに挙げているワン監督だけに、もしかしてアレは貞子オマージュ…?
「アジアのホラー・ストーリーには昔から親しんできたので、Jホラーも間違いなく私の作品に影響を与えています。ガブリエルは主人公の後頭部にくっついているキャラクターだから、顔に髪の毛がかぶさるのは当然…とはいえ、あからさまに貞子風にならないように意識はしました。ただ、『リング』は大好きなホラー映画の一つなので、ガブリエルを見て貞子を連想していただくぶんには構いませんよ!(笑)」。
見た目も、動きも、出生の秘密も、とにかく強烈なインパクトを残すガブリエル。彼はきっと、「ソウ」のビリー人形、「死霊館」のアナベル人形に続くホラー・アイコンとして今後も語り継がれていくに違いない。しかし、このような異形の存在に、ワン監督はなぜ惹かれるのだろうか。
「存在感のあるヴィランたちが好き…というか、彼らは誤解されているはみ出し者のようにも思えるんです。また、置物やランプのような静止物がいきなり動き出したりしゃべり出したりするのも好きです。言ってみれば、子どもの頃にアクション・フィギュアや人形を動かしたりしゃべらせたりしながら遊んでいたのを、大人になっても続けているようなものなんですよ。これでお金がもらえるのだからラッキーです(笑)。ありえないような状況を生み出したり、動かないものを動かしたりするのが映画作りの大きな魅力だと思います」。
童心のままに、映画を作る――それは彼が敬愛するスティーヴン・スピルバーグにも通じる作家性。永遠の映画少年は、大作とインディーズ作品を自在に往来しつつ、これからも私たちに驚きと恐怖を届けてくれるに違いない。ワン監督は最後に、本作の着想からテーマにつながる興味深い逸話を明かしてくれた。
「『マリグナント』のそもそもの着想は、私が幼い頃に父がガンを患った体験から来ているんです。ホラーの物語を作る時は、ガンや腫瘍が頻繁に頭に浮かびます。それらは私たちにとって究極のヴィランです。家族や友達や愛する者を奪うこのヴィランを、我々はまだ駆逐できていません。だから私の潜在意識において、モンスターの原点はガンや腫瘍なのかもしれません。もしくは、周りに悪影響を与える人物などのメタファーでもありますね。マディソンはひどい男性に虐げられ、ガン的な存在に体を蝕まれながら、それらと闘い自分自身を取り戻さなくてはなりません。これは映画終盤の『自分の体を取り戻す』というセリフに象徴されていて、この映画のテーマになっています」。
幼少期の記憶をモチーフに、いまだかつてないほどヒロイックで、アクション満載で、禍々しく、どこか物悲しい怪奇譚を生み出す唯一無二の発想力。天才ジェームズ・ワンの頭のなかを、少しだけのぞき見ることができた…ような気がした。
取材・文/西川亮