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デジタルの作品を、あえてアナログに!『映画大好きポンポさん』フィルム化が目指した、真の“意義”とは

コラム

デジタルの作品を、あえてアナログに!『映画大好きポンポさん』フィルム化が目指した、真の“意義”とは

フィルムで「絵が立体的で優しくなる」理由

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[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

フィルム化にはふたつの会社が関わっている。IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(Imagica EMS)と東京現像所だ。いずれも、フィルム現像を含む映像作品のポストプロダクション(撮影後の作業)を行う会社で、長きにわたり日本映画界を支えてきた老舗。今回は、Imagica EMSがネガフィルム(画〈え〉ネガ)を、東京現像所がサウンドネガ(音ネガ)の制作を担当した。

ネガフィルムとサウンドネガは別々に作られ、それを1つの上映用プリントに焼くことで完成する。ちなみにネガ(陰画)とは、実際の被写体と明暗が逆になった画像のこと。一方、上映用プリントには実際の被写体どおりの明暗で画像が映っている。つまりポジ(陽画)なので、ポジプリントとも呼ばれる。

ところで、そもそもDCPのデジタル映像とフィルムの映像では、目に見える画質のうえで一体どのような違いがあるのだろうか。Imagica EMSの技術者であり、『ポンポさん』フィルム化のクオリティコントロールを統括した石田記理(Imagica EMS プロダクション営業部 チーフテクニカルディレクター)によれば、「フィルムはデジタルに比べて立体的で絵が優しい」。これには2つの理由がある。

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[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

まず、フィルムには、上から順に「青の光」「緑の光」「赤の光」に感じる(感光する)3つの薬品が重ねて塗られていて、それぞれで形成した像の重ね合わせによってネガ画像が作られる。キャンバスの厚塗り絵の具と同様、フィルムという平面に対して立体的に画を作り上げているゆえ立体的に見える、という理屈だ。

もう一つの理由は、フィルムが粒子(グレイン)によって描画されているから。デジタル映像は同じ大きさの点(ピクセル)の集合によって絵を表現するが、フィルムの場合、光の強弱により、粒子の形成されかたが変わることで表現される。大きさの異なる点の集合による描画であり、ピクセルのように「ある/ない」の二択ではない。石田の言葉を借りるなら、それは「限りなく曖昧」であり、結果「絵が優しくなる」のだ。

巷ではよく、フィルムはデジタルの情報量に換算するとどれくらいか?という議論が起こる。ピクセル数を表すK(1000)に換算し、8Kという説、10Kという説、さまざまだ。しかし石田に言わせれば、その換算に意味はない。「フィルムをデジタルに置き換えるというのは、『何ミクロン単位で拾うか』というだけの話。6Kなら6Kで見えてくるものがあるし、12Kなら12Kで見えてくるものがある。それがずっと続いている。その意味でフィルムはレゾリューションフリー、解像度自由なんです」。

フィルムとデジタルに優劣はない

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[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会


しかし、こんな疑問も湧く。もともと「絵」であるアニメーションは、むしろデジタルでパキッと塗り分けたほうが、メリハリがついて“映(ば)える”のではないか?しかし、平尾隆之監督はじめ『ポンポさん』スタッフは、フィルム版を観て「トレス線などの表現が全体に丸みを帯びた」「カメラで実景を撮ったような立体感が出た」「マルチボケ(手前にあるものをピンボケさせること)がうまくいっている」と歓喜した。石田はそれを「デジタルではピタっと見えていたものに質感と空気感が入り、作品の世界に広がりが出た」と形容する。

ただ注意したいのは、ここでは決してフィルムとデジタルの「優劣」を論じているわけではないということだ。Imagica EMSの長澤和典(プロダクション営業部・課長)の言葉は示唆に富む。「もしデジタルで完成した状態が『正解』だとはっきりしているなら、フィルム化によって『正解』からは離れていく。必ずニュアンスの違うものが出来上がる」。

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はたして「見え方の正解」とはなにか。哲学的な命題だ。しかし少なくとも、『ポンポさん』製作陣はその「ニュアンスの違ったもの」を、喜びと称賛をもって受け入れた。松尾はフィルム版について、こんな感想を抱いた。「制作時に想定していなかった自然な風合いになった。デジタルだと光がバキバキに出てしまうところ、それが抑えられたうえで、光が浮き上がって見える。同じ作品なのに、別のものを観ているようでした」。

繰り返すが、フィルムとデジタルの優劣を論じることに意味はない。一つ言えるのは、「デジタルは自分で作ったもの以上にはなりづらいが、それをフィルム化すると、製作者すら想定外の“なにか”が立ち現れる」という点だろうか。

さらに、石田はデジタルとフィルムの表現特性の違いが、フィルム化の難しさそのものであるという。「ごく簡単に言うと、デジタルで作ってモニタに表示される絵は発光体なので、明るい部分の表現が得意。一方のフィルムは暗い部分の表現が得意。表現特性がまったく異なります」。

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[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

フィルムに置き換えてもなお、モニタ画面で見た時の印象に近づけなければならない。例えて言うなら、水彩絵具で描かれた絵と同じ印象の絵を「色鉛筆で描く」ようなもの。至難の業だが、その難題を実現したのが、Imagica EMSが長年にわたって蓄積したノウハウと高い技術というわけだ。これはカラーマネジメントと呼ばれる。石田は「モニタ環境で作ったものをスクリーンに持っていくなど、デバイスを超えて近づける技術は、Imagica EMSの得意分野」と胸を張る。

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