『レット・イット・ビー』から『Get Back』へ…見比べて深まるザ・ビートルズが解散へと向かった真実
これまでの定説を覆す!ザ・ビートルズ解散前の真実の姿
前述したように、1969年当時のザ・ビートルズはすでにファンを前にライブコンサートをしなくなっており、スタジオにこもって傑作アルバムを連発した時期も過ぎ、それぞれの方向性が食い違うようになっていた。「ゲット・バック・セッション」のあともバンドは存続し、同年9月にはニューアルバム「アビイ・ロード」をリリース。さらに翌1970年には「ゲット・バック・セッション」の音源を元にしたラストアルバム「レット・イット・ビー」を発表している。
しかし、セッション後ほどなくして解散へと突き進んでいったことから、「ゲット・バック・セッション」や映画『レット・イット・ビー』は、バンド崩壊の記録として語られるようになってしまった。実際、セッション途中にジョージはバンド脱退を宣言し、残りのメンバーの説得に応じるまでスタジオから姿を消している。長年の活動によって蓄積された鬱屈が爆発したとも言えるが、すでにバンドとしての一枚岩の結束は失われていたのだろう。
ところが、である。『ザ・ビートルズ:Get Back』は、運命共同体として生きた4人のミュージシャンが、バンド末期においてもなおクリエイティビティにあふれ、大いに笑い、チームワークを失うことなく演奏や作曲を楽しんでいた様子を映しだしている。まだ産声を上げたばかりの曲の原型が、やがて誰もが知る歴史的名曲として完成されていくプロセスは全音楽ファン必見だろう。とりわけ、“5人目のビートルズ”とも言われたキーボード奏者のビリー・プレストンが途中から参加したことで、停滞していた演奏が息を吹き返す瞬間は、音楽映画史上に残る名シーンとして今後も語り継がれるに違いない。
実際のところ、ホッグの『レット・イット・ビー』には当時の事情や様々な制約があって、語るべき物語が見えてこない冗長さがあることは否めない。しかしジャクソンは、「ゲット・バック・セッション」には7時間半かけて語るべき物語と、すばらしい音楽が詰まっていたことを、ほぼ40年ぶりに証明してみせた。もちろん、ジョージの脱退騒ぎに象徴される負の側面も描いているのだが、むしろ山あり谷ありだからこそ最高におもしろいドラマが生まれているのだ。
そしてクライマックスを飾るのが、今回初めてノーカットで観ることができる「屋上コンサート」。セッション時にも十分に伝わってくるが、彼らがいかに卓越したミュージシャンであるか、そしてザ・ビートルズが一緒に演奏することで生まれるマジックが、終盤の40分間に凝縮されていると言っても過言ではない。