『レット・イット・ビー』から『Get Back』へ…見比べて深まるザ・ビートルズが解散へと向かった真実
『ザ・ビートルズ:Get Back』をさらに楽しむための3本のドキュメンタリー
『ザ・ビートルズ:Get Back』の7時間半だけでもうお腹いっぱいと思われるかも知れないが、ザ・ビートルズには優れた音楽ドキュメンタリーがほかにも多数存在している。特に本作の理解の助けになる作品を、数本だけ紹介しておきたい。
『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years』(16)は、『アポロ13』(95)や『ダ・ヴィンチ・コード』(16)のロン・ハワード監督が手掛けた、ライブバンドとしてのザ・ビートルズの歴史を追ったドキュメンタリー。イングランドの地方都市、リヴァプールの若者4人がいかにして世界最大のロックバンドに成長し、そしてポップスターの狂騒に疲れて、ライブコンサートから遠ざかっていったのかが、時系列を追ってまとめられている。
『ザ・ビートルズ:Get Back』では、すでに人気の絶頂期とアーティストとしての全盛期を極めたあとの4人が登場するが、「ゲット・バック・セッション」に至るまでの足跡をおさらいするために最適な作品になっている。
そして「ゲット・バック・セッション」でも大きな山場となった、ハリスンの脱退騒ぎの背景を知るために必見なのが、巨匠マーティン・スコセッシ監督による伝記ドキュメンタリー『ジョージ・ハリスン リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』(11)だ。
ザ・ビートルズの楽曲の大半はジョン・レノンとポール・マッカートニーの共作名義になっており、2人はティーンエイジャーの頃から二人三脚で膨大な曲を生みだしてきた。バンド内では最年少のジョージにとって、ジョンとポールは背中を追いかける存在であり、やがて自らも作曲を手掛け、独自の音楽を探求するようになった彼が、バンド内で孤立を感じる一因にもなっていった。
このドキュメンタリーを観ることで、『ザ・ビートルズ:Get Back』で見られるポールとジョージのぶつかり合いがただの不仲やケンカではない、アーティストとしての成長の物語であることはわかるはずだ。
もちろん、ホッグの『レット・イット・ビー』も、『ザ・ビートルズ:Get Back』が生まれる起点となった貴重な作品。ぜひ両作の違いを見比べて、ビートルズ伝説が内包する複雑なレイヤーを味わい、楽しんでほしいものである。
文/村山章